外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 セキュリティがしっかりしていそうな住居で同居する事情は察せられる。

『僕は君の理想の王子様じゃないんだ』

 なによりこの言葉に込められた心情を。亮太はわたしが花岡君を利用し、家へ上がり込んだと思ったのかもしれない。

「絶対、口外しない」

 決意を繰り返す。

「ありがとうございます。俺としては先輩に知られるのは構わなかったんですがね」

「え、そうなの?」

「でなければコンサートへお誘いしませんよ。水、おかわりは如何です?」

 ペットボトルを傾けられ、うっかりグラスを出す。立ったままで飲めないので着席し直せば退出するタイミングを失う。

「実物はどうでした?」

「あ、えっと、その」

 返しに詰まり、何故か微笑まれる。

「お気に召さなくて良かったです。先輩を義姉と呼びたくありません」

「職場では先輩、プライベートはお義姉さん? それだと花岡君に休まる時がなさそうね。ご心配なく! その可能性はゼロ! まだまだ仕事を頑張りたいし」

「結婚願望をお持ちじゃないとか?」

(亮太がわたしを恋愛対象にするはずないし、販売業に対する偏見は残念だった)

「わたしは仕事に理解がある人でないと……って、何を言わせるのよ! 今はそんな話はしてないでしょ!」

「……ありがとうございます。参考になりました」

 花岡君は満足気に頷き、ペットボトルの残りを飲みきった。天井を仰ぐ喉が波打つ様に見惚れてしまい、ハッとする。

 考えてみれば彼も相当量を飲酒したはず。言葉遣いに乱れはないものの、雑に口元を拭ったり足を組み替える仕草が色気を帯びる。
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