外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「そろそろ帰ろうかな! 明日も仕事なの」

 一瞬であろうと彼を男性として見てしまい、羞恥心に襲われる。会話を打ち切り、勢いよく席を立つ。

「送っていきます」

「いやいや、ここで大丈夫! 花岡君も早く寝た方がいい」

「先輩?」

(どうしよう、ドキドキしてる)

 スイッチでも入ったかのように胸が早鐘を打って落ち着かない。

「もしかして具合が悪いんじゃ?」

「悪くない! 平気! また後日、お詫びするね!」

「謝って貰う必要はないですけど……ひとまず玄関へ行きましょうか? タクシーまでご一緒します。させて下さい」

 送る、送らなくていいの押し問答を続けても埒が明かないか。

「うん、タクシー拾う所までお願い出来るかな?」

「えぇ、もちろん! それからーー」

 花岡君もわたしに引く気配がないので承知する。それから足元へ置いてあった紙袋を膝に乗せ、中身を取り出す。

「ストール?」

「シワになってしまったから、これで目隠しを」

 座っていた彼はいつの間にか正面に立ち、ストールを巻いてくれる。

「実はブラウスとカーディガンを選んだ後、買い足しました。渡せなくてもいいので、自分の趣味で先輩へ選んでみたかったんです。貰って下さい」

「渡せなくてもいいって……いや、こんな高価な物、受け取れない。気持ちは嬉しいよ? だけど同僚への贈り物の範疇を超えてる」
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