外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 優秀な販売員ならば真っ当な金銭感覚を持っているべき、それなのに……。
 柔らかい生地を剥がそうとしたら手首を掴まれた。

「レンタルにしましょう! 夜風は冷たいです、どうか使って下さい。それならいいですよね?」

「花岡君……」

「ね?」

(そんな必死な顔をされると突っ返せないよ)

「分かった、貸してもらう。素敵だよね、このストール」

 自分の給料じゃ手が出ない品。照明で上質なカシミアを透かせばキラキラしていて羽織るだけで温かい。滑らかな質感を味合い、肩を抱きしめてみた。

「……やっぱりいいなぁ」

 正直な感想が口をつく。ブランド趣向ではないが、価格に見合うだけの良さを感じる。

「先輩が選ばなそうで似合うカラー、ロイヤルブルーにしてみました」

「確かに自分で買うならブラックやグレーにしそう。この色は選ばないかな」

「とてもお似合いですよ」

 癖で鏡を探してしまう。すると花岡君の瞳に映る姿を見付けた。

「さて行きますか」

「う、うん。なんだか色々して貰ってばかりで申し訳ないな」

「でしたらレンタル料という形でひとつ、お願いしても?」

 交換条件は内容を聞かずとも、わたしに有利であろうと想像できる。それでも多少なり対価を払えるのならばと頷く。
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