外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「家に着いたら連絡をくれませんか?」

「そんな事でいいの?」

「本来ならご自宅までお送りしたい所ですが、お許し頂けそうもないので。せめて無事に到着した旨、お知らせ下さい。寝ないで待ってます」

「それくらいなら、まぁ、うん」

「ありがとうございます!」

 こうしてわたしは花岡君宅を後にする。コンシェルジュがタクシーを手配しており、待ち時間無く乗車出来た。
 24時間、サービス対応する環境へ突っ込むのは野暮だろう。彼にとってロイヤルブルーブルーのストールもコンシェルジュが滞在する部屋に住まうのも身近なのだから。

(今日は本当にありがとう。家に着きました、と)

 約束通り、住み慣れた我が家の前でメッセージを送信しておく。と、返事はすぐあってーースタンプが添えられていた。

(いつもは文章だけなのに)

 前からIDを教えてあったが業務連絡をする程度。おやすみなさいと可愛いスタンプを押された事で距離が縮まったような……。

(いやいや、距離を縮めてどうするの? 明日からは先輩と後輩に戻るだけ)

 画面上でウィンクするキャラクターへ溜息を吹き掛ける。

 アイドルの亮太、花岡君の兄である亮太に出会い、感情はごちゃ混ぜのまま。それでも夢みたいな時間だったのは間違いない。

 名残惜しいもののストールを外して空を見上げる。

(花岡君とコンサートに行った事、亮太の件、きちんと忘れなきゃ。明日からは先輩後輩だ)
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