外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


 ーー翌日。出勤したわたしと入れ違いで主任が休憩へ入るところだった。

「おはようございます」

「おはよう」

 お昼を回っていても挨拶は『おはよう』で統一される。

「近藤様の靴、修理手配してあるな?」

「はい、工房へ配送しました。見積もりがで次第、近藤様にお伝えします」

「任せたぞ。それとーー」

 売り場へ出る前に申し送りが2、3言あり、メモを取りつつ承知した。

(さてと、今日は何からやろうか)

 主任に次いで古株のわたしにはデスクとパソコンが割り当てられている。着席せず電源をいれ、メールチェックを始めた。

 販売員は売るだけが仕事じゃない。どんな品が売れているのか動向を追い、時には先回りをしお客様の『欲しい』に応えていく。その為、取引先との連絡もマメに行う必要があるのだ。
 売り場に立つわたし達だからこそ、お客様の声を拾い届けられる。

「お疲れ様、深山さん少しいいかな?」

「お疲れ様です。どうぞ」

 キーボードを打ちながら応じる。

「平場(ひらば)がまた揉めていて……仲裁して貰えない?」

 平場とはブランドごとの仕切りがない売り場を指す。区画で分かれていないのでお客様の取り合いが発生しがちなエリア。 

「せっかくうちの商品見ていたのに、他の商品を売ろうとするって?」

 続きを言い淀む同僚の胸の内を代弁した。

 昨今どのメーカーも潤沢な人員配置は厳しく、対応している最中に他のお客様がくると手が回らない。そこへ他社スタッフがアプローチをかけてチャンスロスを発生させる。端的に表現するとお客様の奪い合いだ。

「毎度の事なんだけど、その」

「他社製品を接客して売って下さいとは言えないですものね。分かりました! 話をしてみますね」
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