外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 メールを送信し、顔を上げた。逆に相手はペコリと下げてくる。

「いつもごめんね? 深山さんの言葉なら聞いてくれると思うんだ」

「あははーーだと良いんですが」

 今日のスケジュール的にトラブルへ介入する余裕などない。だけど引き受けてしまう。

(もし断ったりしたら、関連会社へ移動させられるかもしれないし)

 なにもお人好しで人の嫌がる仕事を請け負っている訳じゃない。今の社長は顧客主義を掲げる一方、経営の抜本改革とし大郷百貨店の従業員を関連会社へ出向させる。人員削減を積極的に行う。
 その対象は主に給料が高い、イコール勤続年数が長い者。わたしも含まれるだろう。

(わたしは販売員であり続けたい)

 弱音と文句を飲み込み、笑顔を作る。

「ね、言ったでしょう? 深山さんなら断らないって。彼女、仕事しかないからさ」

「浮いた話、全然聞かないもんね。私も厄介事に巻き込まれたら助けて貰おう!」

「頼りになるよね! 深山さんって」

 事務所を出て行く背中にこんな言葉を浴びせられても、頼まれれば『かしこまりました』と言う。
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