外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する

4 お待たせしました①



 平場へ行き、それぞれの不満を聞く。
 百貨店側の人間であるわたしが彼女等の待遇改善はできない。ただ自社製品を売りたいがゆえ、必死な気持ちは分かる。まして販売実績に応じた賃金形態となれば生活へ直結する問題だ。

「深山さん、今度飲みに行きましょうよ! 貴女となら通じ合える! そうなの、私は愚痴を言いたいだけなのよ!」

 話を聞いた中で一番のベテランスタッフが手を叩いて言う。

「あー、お酒ですか」

「飲まない?」

「実は直近で失敗してしまいまして。暫く断酒しようかと」

 こちらには体よく遠慮する理由がある。

「私とだけ飲みに行けば、贔屓してるって言われちゃうもんね」

 食い下がられると思いきや、あちらも断られるのを前提に発言していた。本人が言った通り、愚痴を言いたいだけなのだ。

「平場で働く皆さんとお食事なら参加します」

「冗談言わないで! 商売敵と美味しく食べられるはずないでしょうが」

「商売敵という言葉、久し振りに聞きました」

「ふん! 小娘等にはまだ負けられないのよ」

 正面を見据えた状態で会話する。小娘と呼ばれた2人は接客しており、こちらを気にする様子はない。

 彼女等の言い分とはベテランスタッフの縄張り意識が強い。やたら突っかかった物言いをする、怖いオバサンだと。

 その横顔を盗み見るが、わたし的には貫禄があって頼もしい。
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