外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「深山さんも聞いてる?」

「ん、何を?」

 カウンター越しに茹でられるうどんのダンスを眺める。

「ドラマの撮影をするんでしょ?」

「あぁーーそんな話あったね」

 大郷百貨店本店は建築物として歴史的な価値があって、ドラマだけでなくドキュメンタリーや教育番組などの撮影場所になる機会が多い。

「あたし、映っちゃったらどうしよう! 芸能人に会えたりするのかな?」

「どうだろう? 閉店後にカメラを回すって話だった気がする。でも出演者と擦れ違うくらいはあるかもね」

「そうなんだ、そうなんだぁ!」

「嬉しそうね? お互い、働いて長いんだし珍しくないんじゃない?」

「もう、深山さんったらクールなんだから! そりゃあ撮影自体は珍しくないけどCrockettの亮太が主演のドラマよ? あなたもファンだったよね?」

 亮太という響きにギクリッ、動揺する。

「深山さん?」

「ううん、なんでもない! へ、へぇ、亮太のドラマだったんだ?」

 厨房スタッフとはCrockettの情報交換もする間柄。本来であれば昨日のコンサートについて語りたい。しかし、語れない。

「……頂きます」

 うどんを受け取り、そそくさ場を離れた。
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