外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 食堂ではわたしの他、数名が休憩をとっている。人員削減は着実にされているものの、面識のない従業員は多い。
 目が合えば会釈や挨拶をするが、販売員スイッチをオフにしている所へわざわざ声を掛けないのが暗黙のルールだ。

(ドラマ撮影、か)

 正直なところ、もろ手を挙げて大喜びーーといかない。

 亮太の素顔を知ってしまい、純粋に応援し続けられるのか迷う。アイドルという仕事に誇りを持っていない発言云々より、花岡君の兄である事がなにより引っ掛かる。

(ストール、どうやって返そう)

 食事に手を付けず頭を抱えた。今日は花岡君が居なかったから考えずに済んだものの、明日以降そうはいかない。

(チケットのお礼、飲み過ぎたお詫びもしなきゃ)

 問題は山積みだ。

「深山さんですか?」

「へ?」

 悶々と思考を巡らす最中に名を呼ばれ、マヌケな返事をしてしまう。

「お食事中、申し訳ない。少々宜しいですか?」

「あ、はい、えっとーー」

「佐竹です」
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