外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「あぁ、外商部の?」

 言いつつ、正面の席を促す。

「そう、その佐竹だ」

 佐竹さんと接点はないが、社内報などで存在は知っている。

「花岡一樹君についてお聞きしたい」

 一礼して腰掛けるなり、さっそく本題を切り出してきた。

「わたしにですか?」

「貴女が彼の教育を担当していると主任から聞いてる。花岡は外商部で通用すると思う?」

 こちらに傾げる間すら与えず、矢継ぎ早に主張する。
 外商部とは百貨店の売り上げ約7割を担う部署。在籍者はいわゆる精鋭、エリート販売員と言っていい。

「率直に答えます。外商部員のお客様はわたし達が普段お相手する方々と違い過ぎますので、通用するかどうかは分かりかねます」

「確かに我々のお客様は年間で数千万以上お買い物をして下さる方々、一般的な金銭感覚とはかけ離れている。だが、花岡の家にも外商が出入りをしていたんだ。外商がどんな役割りか、理解しているはず」

「花岡君の家に……」

 あり得ない話じゃないか。納得する。

「いずれにしろ、わたしからは何とも言えません。本人の意思が一番大事だと思います」

「後輩が異例な抜擢をされて悔しい?」

「……それはどういう意味でしょう?」

 質問を質問で返す。どうやらわたしが太鼓判を押した流れで花岡君へ打診したいらしい。が、そんな見え透いた会話術に乗ってあげる義理もない。

「遠回しに話したつもりはないがね。額面通り、受け取って貰えればいい。深山さんは花岡に嫉妬してるとか?」

 鼻を鳴らす佐竹さんは明らかにわたしを見下す。
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