外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「私なら可愛い後輩に外商部へ移動の話があれば背中を押す。花岡の成長を願うのであれば当然だろ?」

「お忙しい佐竹さんがわたしを探してまでお話するのって、彼から色良い返事を聞けてないのでは?」

 佐竹さんの形の良い眉が動く。
 わたしは冷めないうち、うどんを啜る。もう話す事はないと意味を込めた態度を取りつつ、内心は味がしないほど緊張していた。

(外商部と揉めたなんて主任が知れば、怒るだろうなぁ)

「成る程、深山さんは口添えしない。そう捉えてもいいんだな?」

 肯定の代わりに一際大きな音で啜っておこう。本人がその気なら助力は惜しまない。だけど、そうでないなら無理強いをしたら駄目だ。
 すると佐竹さんはテーブルを一発叩き、席を立つ。

「君の非協力的な対応、上へ報告するぞ」

 怖い捨て台詞を吐いて食堂を出て行った。

「ちょっと、ちょっと、深山さん! 今の人を怒らせて大丈夫なの?」

 厨房から事態を見守っていたらしく、お冷やを持って駆け付ける。

「はは、大丈夫じゃないかも? 佐竹さんはうちのエースで社長からの覚えもいいしね」

 コップを両手で受け取るが、震えで波立つ。

「そんな人になんで楯突くのよ」

「……本当、何でだろう」

 自分でも理由を上手く説明できない。それでも不思議と後悔はなかった。
< 44 / 116 >

この作品をシェア

pagetop