外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


 佐竹さんとの一件以降、数日は普段通りに時間が流れている。
 事態が動いたのはとある昼下がり、わたしと花岡君はバックヤードで在庫整理をしていた。

「花岡君、ここはわたしに任せて先に行って」

 作業はなかなか片付かない。先に休憩を回してしまおう。

「主人公を進ませて自分は死を覚悟する、みたいな言い方よして下さい。こんな大量のパッキン、一人で荷捌きするのは無理です」

 促すが彼は従わなかった。わたしの背丈以上に積み上げたパッキンを降ろして中身を取り出す。

(前より口調が砕けてるな)

 変化を感じつつ指摘はしない。別に失礼と言うほどじゃないし、亮太との関係へうっかり触れてしまったりしないか不安、かつストールを返せずにいる事が後ろめたいというか……。

 彼が外商部へ転属するのではないか、その話は現実味を帯び始めていた。今一番話題の人物にストールを返却する所を目撃されようものなら。起こる展開は想像しやすい。

「先輩、作業が止まってますよ? 早く片付けて一緒に昼食を食べましょう」

「あ、うん。そうね」

 花岡君から外商部行きの相談をしてこない。だからこちらも聞けないじゃないか。

(まぁ、わたしじゃ頼りにならないか)

「俺は先輩を尊敬してます」

「え?」

「先輩の後についてまだまだ学びたいから」

 花岡君は手を動かしたまま言う。

「いやだって先輩の顔に書いてありますよ?『花岡はどうして話をして来ないんだ』って」

「えぇ! 嘘でしょ? わたし、そんなーー」

「はい、嘘です」
< 45 / 116 >

この作品をシェア

pagetop