外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「……」

 無言で花岡君を睨む。

(やっぱり口調、砕けてる)

 からかわれているにしては擽ったくて、もちろん見下されている気もしない。

「転籍のお話は光栄でありがたいと思っていますよ。だけど俺は深山さんの側で働きたいんです。うっとうしいかも知れませんが、足を引っ張らないよう頑張るので教育係を続行してくれませんか?」

「これは出世のチャンスでもあるのよ? いいの?」

「はい」

 念押しに彼はお手本通りの笑みを浮かべた。

「ふぅん、次のチャンスがあるって自信がたるんだ?」

「またお話を頂けると信じたいです。そして今は自分にとって最良の選択をした、それだけですね」

「あぁ、そう」

 つれない声を出す。ついでにこの流れはストールの件を伝えるのに丁度いいか。

「借りていたストールなんだけど……」

 言い掛けたその時、ポケットの中の携帯電話が震える。着信相手はーー外商部と表記された。

「主任ですか?」

「たぶん佐竹さんだと思う。はい、深山ですが」

 佐竹さんの名を聞き、花岡君の表情が曇った。わたしを案ずる目つきで会話へ聞き耳を立てる。
< 46 / 116 >

この作品をシェア

pagetop