外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「こちらの靴はーー」

「あれがいい!」

 順番で説明しようとしているのに、遮り指し示す。

「こちらですね」

「うん、買い物はフィーリングが大事」

 履いてきた靴を早々に脱ぎ、寄越せとばかり顎でしゃくる。靴ベラも一緒に差し出すが使用せず足を入れ込む。

「いかがでしょう? どうぞお鏡でご覧になって下さい」

 佐竹さんはわたしには見せない柔和な笑顔で姿見を勧めた。芸能人のオーラを閉じ込めた装いはカジュアル、革靴とのアンバランスさは否めないーーが、似合ってしまう。

「シンデレラシューズのメンズモデルでございます」

「シンデレラシューズ? 男物も作っているんだっけ?」

「現社長が就任する際、数量限定で生産されました。現在は流通しておりません。再販の予定もございません」

「へぇ、なかなか手に入らないのか。限定品とか言われたらコレクター気質をくすぐるなぁ〜」

 素材や製造方法ではなく、希少性をメインに伝えている。当然そこもセールスポイントなのだが、このビジネスシューズにはもっと沢山こだわりがあってーー

(それにサイズが大きい気がする)

「お召しのスウェットも展示会でご注文された品ですよね?」

「ん、よく分かるね? ここのデザイナーと知り合いでさ。ファッションショーへ出る代わりに貰ったの」

「展示会注文数のみ作られたと伺ってますよ。展示会は限られた人しか招かれない為、実質オーダーメイドでしょう」

 目線で佐竹さんへフィッティングの指示を促す。ところが首を横に振られてしまう。
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