外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「そんなに凄いんだ! 今度会ったらお礼を言わなきゃ」

 亮太は言葉では言うも大した事でもない風に受け止め、手持ち無沙汰のわたしへ傾げた。

「あ、そうそう! シューフィッターがどんな仕事をするのか知りたかったんだっけ。とりあえずこれは買うから、あっちを履こうか」

「えっ、あの試し履きーー」

「かしこまりました、すぐお取りしますね! こちらもとても良い品ですよ」

 まずは今履いている靴のフィッティングをしたいが、割り込まれてしまう。

「真琴ちゃん、本当に僕のファン? 僕が靴を収集してるって知らなかった?」

 ーーそれは知ってはいた。亮太がファッション雑誌でコレクションのスニーカーを紹介する記事を読んだことがある。

「ではコレクションに加える前にサイズを」

「深山」

 低い声音で制された。ちょうど亮太は靴を脱いでいる所でやりとりは聞こえない。

「貴女は言われた通り、動け。シューフィッターがどんな作業をするか、いわゆる役作りのお手伝いをしろ。いいか? 余計な真似をするな」

 シューフィッターは靴選びのサポートをし、それは作業じゃないのに。

「……」

 何も言い返せない。だからといって不満を浮かべる訳にもいかず。まるで自分は亮太に所望された舞台装置に感じた。
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