外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「あぁ、その通り。つまり私にフォローされる彼女では君の失敗を庇いきれない。深山さんについても利はないよ。
 兄弟で比べられるのもプライドが傷付くだろうが、コンプレックスすら武器にしていけ。それくらいの逞しさがないとこの業界じゃやっていけないぞ」

 佐竹は兄貴を匂わせ、つらつら語る。

 百貨店従業員の役を演じると決まった折、兄貴は事務所を通じ大郷百貨店外商部とコンタクトを取ったらしい。
 これは親類経由じゃ話が纏まらないのを分かっての行動で、正確に言えば兄貴は正式な外商顧客じゃない。父に配慮した百貨店側が役作りに協力するという建前で外商サービスを受けている。

 そして、期間限定で兄貴の担当を任されたのが佐竹。
 彼は俺が人気アイドルの弟であるのを利用しようとしているのが露骨に伺え、いや、そもそも隠すつもりはないのだろう。

「予定があるなら仕方ない、また誘うな」

 話は平行線を辿る。実入りのない交渉から佐竹はいったん引く。

「……ありがとうございます。お疲れ様でした」

「言っておくが、花岡が俺の利になり得る限り、何度断られようと誘う」

 大郷百貨店本店・外商部のエースは鋼のメンタルを持つ。状況判断に的確、物事を損得勘定で割り切れる性格をしている。
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