外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 それに比べ、深山先輩は正反対の性格。
 先輩を見ているとお客様へ寄り添う接客をするだけじゃ数字を作れない、それが痛いほど分かってしまう。

 売れる販売員が評価されるのは正当であり、売れない販売員はーー。

 佐竹を見送る傍ら、自分が履いている靴を見た。



 ひとあし遅れでバーへ着くと先輩がカウンターでグラスを傾けている。入口まで全力で走ってきたくせ涼しい顔を作り、隣に腰掛けた。

「遅かったね」

「すいません。出掛けに少し」

「佐竹さんでしょ?」

 おかわりするペースで飲もうと、そういう勘は働くらしい。
 カウンター内のマスターがオーダーしなくともいつものを作り始める。

「飲みに誘われました」

「今日は高級ビジネスシューズを何足も販売したし、祝杯かな? 花岡君は行かなくて良かったの?」

「不味い酒を飲む趣味はないですから」

「わたしの愚痴は聞いてくれるのに?」

「当然です」

 これは佐竹と飲みたくないという意味合いだけじゃない。

「優しいね、ありがとう。それからーー頼りない教育係でごめんなさい」

 先輩は俯き、声を震わした。そして世間話を挟む余裕もなく本題を切り出す。

「兄に聞いてみましたが、全く気にしてませんよ」

 兄へ連絡など滅多しないが何があったのか探りを入れたところ、俺から電話した事に驚かれるだけだった。

「ーーだとしても、あの時のわたしは役立たずだった。佐竹さんが機転を利かせたから、亮太さんは期待以上の満足感を得られたの」

「期待以上の満足を与えたのが佐竹さんだろうと、先輩であろうと良くないですか? 兄は買い物を楽しめた、それでいいのでは?」

 我ながら白々しい。佐竹とギブアンドテイクの連携が取れた間柄であれば、こんな事態に陥らないだろうに。
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