外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 深山先輩ーー真琴さんの腕時計をコツンッと弾けるくらい接近し、それでも仕事熱心な気質はオフにならず。

 間接照明で浮かび上がる髪の流れを辿り、束ねたバレッタを外したくなる。髪を解くよう気持ちを解放したい。

「先輩は俺に佐竹さんを選ばそうとしますが、俺は『真琴さん』に選ばれたい。それから兄貴と俺なら、俺を選んで欲しいです」

「いきなり、な、なにを言い出すのよ?」

「他人に興味のない兄貴ですが、靴をフィッティングするにあたり真琴さんを指名したんです。嬉しいですよね? ファンなんですし」

「仕事は仕事よ! 嬉しいとか、そういうのは切り分けないと!」

 とか言いつつ満更じゃない反応。顔が赤く染まっていく。

(ほら、やはり嬉しいんじゃないか)

 真琴さんは亮太が俺の兄貴と知って以降、Crockettの曲を表立って聴くのを控えているが、これからも仕事で落ち込んだ時に励ます声音は兄貴のものだろう。俺は2番手。

 佐竹の指摘通り、兄貴と比べられるのが嫌で仕方がない。競って負けるのが嫌だったから道を譲ってきた。
 だが、彼女には兄貴と比べて欲しくて仕方がない。

「今はプライベートの時間だって言いましたよ。兄貴と俺ーー」

「選べない!」

 きっぱり断言されてしまう。

「だって花岡君は花岡君、お兄さんはお兄さんだよ」
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