外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 商品を扱う風に俺の心へ触れつつ、値踏みしてこない。真琴さんは俺個人と真っ直ぐ向き合う。

「兄貴じゃなくーー俺じゃ駄目?」

「ん?」

「真琴さんの支えになるの、俺じゃ駄目?」

 ねだる口調に先輩は眉を下げ、困る。

「わたし、いつも花岡君に助けられてるよ」

「そうじゃなくて! そうじゃ……」

「今夜も花岡君のおかげで正気でいられるの。1人だったら落ちるところまで落ちてた」

 グラスの縁を指の腹でなぞり、耳へ髪をかける。あぁ、仕草がいちいち美しい。

 思えば真琴さんの接客、食事の所作も気を抜けば見惚れてしまう。楽しそう、美味しそうにする笑顔が魅力的だ。

 真琴さんにはたくさんの愛情が注がれ輝き、宝物みたく育てられたに違いない。

 彼女へ伸ばしかけていた腕を引っ込める。

(俺から触れたら曇らせてしまう)

「話を戻すけどーーわたしね、もっと頑張らなきゃって思い直す事にする!」

「真琴さんは頑張ってる、理不尽な仕打ちを仕打ちにまで理解を示さなくたっていい、真琴さんは悪くない!」

「……あはは、もう甘やかさないで! せっかく教育係として振る舞おうとしてるのに」

 でないと寄り掛かりたくなっちゃう、付け加えた弱音ごと抱き締めてしまいたい。

 それが自らを鼓舞する言い回しであると充分承知しているものの、本能で喉が鳴る。
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