外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する

5 申し訳ありません



 文字通り、肩で風を切って歩く。立ち止まってしまえば大声で泣いてしまいそうだから。
 悲しいの? 怒りたいの? 複雑な感情を紐解くのが怖い。絡まったままにしておけば見ないで済む。

(花岡君に女性として軽んじられると思ってもみなかった)

 息が切れ、それでも止まらない。アパートまで距離はあるがタクシーを拾う事を視野に入れず、ひたすら歩く。ずんずん歩く。

「ーーっ、うわっ!」

 が、そんなマヌケな声と共に躓いてしまった。咄嗟にコンクリートへ手をつくも、膝へ強い痛みを感じる。
 人の行き交いが多い道の真ん中でしゃがみ込めば迷惑になってしまう。丸く穴が空いたストッキングを庇わず、脇へ寄った。

「はぁ、何やってるんだろ」

 嘆きを夜空に吹き掛ける。あの状況をあしらう事は決して難しくなかったはず。だけれど、そう対処しなかったのはーー

「ねぇねぇ、あっちで撮影してるって!」

「え? 何の?」

「Crockettだって!」

 カラフルなスニーカーが弾んで目の前を通り過ぎていく。
 Crockettーー正直、聞きたくないワード。

 亮太が花岡君のお兄さんと知ってから、なんとなく距離を取っている。純粋なファンでいられなくなった。
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