外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


「はい、お水。僕の飲みかけだけどいい?」

「……」

「あ、嫌?」

「喉は渇いていないので結構です」

「ふむ、なら新しいのあげるよ。間接キス、チャレンジ失敗〜」

「……」

 お姫様抱っこされたまま運び込まれた空間はーー二度と足を踏み込む機会がないと思っていたマンション。
 未開封のペットボトルを受け取り、花岡君の気配を探る。ここで再会なんて展開は是が非でも避けたい。

「一樹なら今夜は帰って来ないよ。実家へ行ってるんじゃないかな」

 こちらの腹を見透かして言う。今回も応接室へ通され、革張りのソファーの座り心地は変わらず気まずかった。

「そうですか。わたしもお暇しますね」

 花岡君が帰宅しないにしろ、長居は無用。

「待ってよ! なんで真琴ちゃんを家に呼んだと思ってるの?」

「……というより亮太さん、撮影中だったんじゃ? 抜け出して平気ですか?」

「抜け出すなんて人聞きが悪いなぁ。ちゃんと仕事はしてきた。カットが掛かったから速攻帰っただけ」

「ドラマ制作の現場がどんな感じなのか知りませんが、共演者へ挨拶したりメイクを落としたり。着替えをしてから帰るんじゃ?」

「そんなのは個々の自由。今日はテッペンを周る前に帰りたかったんだ」

 テッペンとは24時をさす。わたしの前でビジネスシューズが脱げた亮太はさしずめシンデレラか。

「みんなが君みたく仕事熱心な訳じゃない」

 ここで家に招かれたーー連行される目的を思い出す。
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