外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 動作を止める一方で眉間にシワが寄るのは止められなかった。

「あれ? 真琴ちゃんは一樹が嫌い?」

「花岡君がわたしを気に入る? 初対面じゃない気がして意地悪する感覚がわたしには理解出来ないです」

「そういうのを一般的には嫌い、苦手って言うんだってば」

 亮太はクスクス笑う。バンソウコウの包み紙が剥けないでいるとサッと手を出す。

「僕のワガママに付き合うのは仕事の延長?」

「この状況、付き合うというよりは強制に近くないですか?」

「人気アイドルの自宅へ連れ込まれて喜ばない女の子って居るんだ〜」

「先程、ご自分で言いましたよね? 皆がみんな仕事熱心でないって。それと同じで皆が亮太さんへ好意を抱いてる訳じゃないし、抱いていたとしても無理矢理は良くないです!」

 亮太に対し、花岡君のお兄さんとして接している。憧れのアイドルとして対峙するのは亮太もして欲しくなさそう、わたしもしたくないので。

「ん〜なら真剣に口説いちゃおう! それならいい?」

「はぁ、真剣? そういうのを一般的には冗談って言うのではーー」

 話している途中で亮太が片手をテーブルへつき、ぐいっと乗り出す。絆創膏を貼り終えたところでわたしは顔を上げ、接近に息を飲む。

「僕は悪いお兄さんだから弟が欲しがるものを全部奪っちゃうんだ。まず家業に捕らわれない職業の自由でしょ」

 鼻先で指がひとつ折られる。

「その次に母の旧姓を名乗る、姓の自由」

 もう1本、折られる。
 そして残った指でわたしを差す。

「更に真琴ちゃん、君だ! 恋愛の自由を僕は手に入れ、一樹には父が決めた相手と結婚して貰おう」
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