外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する

6 恐れ入ります



「近藤様、お預かりしていた靴の修理が終わりました」

「いつもありがとう。助かるよ」

 先日、修理を承った品を手渡す。

「深山さん、少し痩せたかい?」

 近藤様とは新入社員の頃からのお付き合いで、世間話もする間柄だ。

「お仕事、大変なんだろう? 新人君が移動になったって聞いたが」

「あぁ、花岡ですね。彼は外商部へ移動になったんです」

「ほぅ、若いのに凄いな。大郷百貨店の外商部と言えば全国一の売り上げを誇る精鋭だ」

「近藤様に仰って頂けるとは。恐れ入ります」

 近藤様は貿易会社の社長でありながら、ビジネスシューズの底を今なお擦り減らす。営業活動を怠らない。

「活躍が楽しみだね?」

「えぇ、本当に。期待のルーキーですよ」

 片膝をつき靴ベラを差し出す。彼は戦友である靴が直ってきた事で柔らかな笑みを浮かべ、履き心地を確かめる。

「その期待のルーキーを君が育てたんだろう?」

「いえ、わたしは何も。近藤様のようなお客様につかせて頂き、花岡は成長したのです」

「はは、深山さんは相変わらず謙虚だな。私はそういう君から靴を購入したい」

「恐れ入ります」

「ーーと言ってもリペアばかりではな。どれ新調しようか」

「お気遣いありがとうございます。ですが、お選びした靴が近藤様と共に月日を重ねていくのは感慨深いです」

「そうだね、私にとってビジネスシューズは戦友であり相棒なんだよ。まだこうして共に歩めるうちは他に浮気は出来ない」

 近藤様の顔を見れば気に入ったか否か、尋ねなくとも分かった。
 わたしは承知したと頷く。

「あぁ、そうそう、今日は深山さんへこれを渡そうと思って」

 修理品のフィッティングを終え、防水スプレーや靴墨等のケア商品も購入すると、近藤様が招待状を取り出す。
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