外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「……ちょうど休憩しようとしてました。で、真琴さんに会いたいなぁって思っていました」

 脚立を降り、上着からハンカチを差し出す。

「嘘。わたしを避けてたのに?」

「顔を合わせると真琴さんを傷付けてしまう。だから会ってはいけないと言い聞かせてました。無駄な痩せ我慢でしたけど」

「わたしと会うと佐竹さんに嫌がらせをされるからでしょ?」

「……そうですか」

 いったん言葉を切る。

 彼女が自責の念に駆られる理由に心当たりしかなかった。

「知られてしまいましたか。そうでなければ、こんな時間に駆け付けませんよね。俺は平気ですよ。真琴さんが嫌な目に遭わされなければそれでいい」

 受け取らないので、頬へハンカチを押し当てる。すると彼女は躊躇いがちに擦り寄ってきた。

「花岡君、わたしはこんなの望んでないよ? 相談して欲しかった」

「相談すれば俺が望まない結果になります。俺は真琴さんに販売員で居続けて貰いたい。尊敬しているんです、あなたのような販売員になりたいんです」

 リスペクトしている旨を告げる。

「わたし、そんな立派じゃない! 花岡君がわたしの為に色々動いてくれてる中、バーでの出来事をやり直す事ばかり考えてて」

 唇を震わせ、真琴さんは続きの言葉を噛む。
 擦り寄せたままの頬を撫でてみる。

「やり直す事ばかり考えてーーの後は?」

 促したが首を横に振られてしまう。

「お願いします、言って下さい。きっとそれが俺が欲しかった返事だと思います」

「言えない。言う資格ない」

 これは照れからくる言い淀みじゃない。

「ーーそれなら俺から言います。ほら真琴さん、俺の顔を見て下さい。自分の言葉で気持ちを伝えます」

 俺は覚悟を決めた。
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