外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 真琴さんの両肩へ手を置く。
 膝を少し曲げ、瞳へ訴える。

「あなたがずっと好きでした。新入社員で販売員としてはひよっ子の俺が真琴さんと釣り合うのか不安で、バーでは試す真似をしてしまい申し訳ありませんでした」

 憧れの対象が手元へ落ちてきたらいい、あの時はそう願ったけれど……。

「ゆくゆくは百貨店運営の中枢を目指すつもりです。真琴さんと同じ売り場で働きたいと言ったのは本心ですが、あなたと早く対等になりたい気持ちも強く芽生えてます」

 黙って見上げてくる彼女を抱き締める。

「兄貴と比べてとか、俺を選んでだの、小賢しい言い回しはもう止めます」

 ギュッと力をこめたら、背中へ腕を回された。

「好きだ」

 短い言葉に全身全霊を込めた。

「真琴さんは高嶺の花、こうして抱き締めてみたかったです」

「わたしはそんな大層じゃないってば」

「入社前、真琴さんにビジネスシューズを選んで貰った事があるんです。あなたは覚えていないと思いますが、俺にとって大切な思い出です」

「そ、そうだったの? 教えてくれれば」

「だって真琴さんは俺と距離を取りたそうだったので。ははっ、今はこうして抱き締めちゃってますけどね」

「は、離して!」

「こら、話はまだ終わってません。暴れないで最後まで付き合って下さい」

「う、うぅ」

 結っていない髪を透くと、腕から逃れるのを観念したのか大人しくなる。

「当時は大郷百貨店で働くのか、迷っていました。けれど、あなたが採用面接の場に居たから」

「……面接官がわたしだって分かってたの?」

「はい。笑わないで下さいね? この靴が真琴さんと巡り合わせてくれたのだと感じました」
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