外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 ふいに足場が軋み、花岡君がこちらを睨み上げていた。顔立ちが整っている分、険しさが際立つ。

「あ、あの、いわゆるヤキモチを焼いてみただけで。花岡君を疑っている訳じゃないのよ?」

 弁解すると打って変わりにっこり微笑む。

「例の彼女に微塵も気持ちはありません。証明する為にも早く見付けてイチャイチャしましょうか? いいですよね?」

「は、はい」

 わたしが敬語になってしまった。

(それにわたしだって花岡君と恋人になれた実感はない)

 次の棚へ移動し、様子を盗み見る。
 大郷百貨店のホープ、異例の外商部への抜擢等々、重圧が容赦なくのし掛かるだろう。
果たしてわたしはそんな彼を支える事が出来るのか?

「真琴さん」

「ん?」

「好きですよ」

「な、なにを急に」

 花岡君は手を動かしつつ、こちらを見ないで言う。

「言いたくなったので言ってみました。俺、向こうの棚を調べてきますね」

「う、うん」

 遠ざかる靴音と鼓動がシンクロする。花岡を好きだと認めてしまえば、恋に落ちていくのはあっという間。
 それでもわたし達らしく仕事とプライベートはきっちり分けていきたい。

「よし! 探すぞ!」

 ーーだが結局、靴は見付けられなかった。
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