外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


「はぁ、こんなに探しても見当たらないなんて」

 バックヤードから事務所へ移り、わたしは商品情報、花岡君は購入履歴をパソコンで調べている。

「販売した形跡ーーないですね。お客様からの取り置き依頼も同じく」

「この靴、花岡君からチケットを貰った日に見た。中身も確認した記憶があるのに」

「真琴さんが言うなら間違いはないでしょう。明日、探し直すしかないですね。ひとまず佐竹さんへ報告してきます」

「う、うん」

 花岡君はわたしの髪を優しく撫でてから退出。やりとりが漏れ伝わらない配慮だろう。商品が手配できないとなれば叱責は免れない。
 いけないと思いつつ、ドア付近で聞き耳を立てた。

「ーーはい、申し訳ありません。在庫データ上ではあるのですが、現物が見当たらず」

 花岡君は冷静に事の顛末を話す。

「深山さんにですか? あ、いえ、そういう訳では」

 佐竹さんがわたしに探させるよう指示を出したと伺える。どうやら花岡君はわたしが既に探した旨は言わない様子。

(在庫管理が至らないと指摘させない為か)

「え? ドラマ関係者がですか? いや、さすがにそれは」

 今度はドラマ関係者達がバックヤードへ入って盗んだのではないか、疑っているみたい。ちなみにドラマ関係者へ疑いを向けるのは主演である亮太の顔を潰す。

 花岡君は段々と歯切れが悪くなり、はい、すいませんを交互に唱える。

(バックヤードにも防犯カメラが設置してあったはず)

 思い出し、それを彼に教えるため紙とペンを用意しようとした。

「あっ!」

 ペン挿しに手を伸ばした際、ストールが肩から滑る。そのままデスクの下へ落ちてしまい、慌てて屈む。
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