外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「そ、そんな、これは」

 するとストールの他、件のビジネスシューズがあったのだ。
 わたしは驚いて尻もちをついてしまう。よもや自分の机の下から探し物が発見されるなど考えてもなかった。しかもーー

「どうして?」

 化粧箱は無残に傷んでおり、これでは中身に影響を及ぼさない訳がない。四つん這いとなりそれを引き寄せると祈る気持ちで開けてみた。

「真琴さん? どうしました?」

 通話を終え、ガタガタ震えるわたしへ駆け寄る。
 彼は切り刻まれたビジネスシューズを認識すると抱き締めてくれた。

「わ、わたしの、デスクの下に……なんで」 

「落ち着いて。いったん椅子へ腰掛けましょうか」

「誰が? こんなひどい!」

「真琴さん、落ち着いて下さい!」

 着席を促されてもかぶりを振る。傷だらけのシューズを抱え、混乱に陥った。

「あ! この靴、外商のお客様が探されてるんだよね? どうしよう、もう製造してないの、市場にも出回ってないと思う」

「真琴さん」

「この靴がないと花岡君のお客様がーー」

「真琴さん」

 後頭部を力強く固定され、視線を合わす。

「大丈夫、大丈夫です」

 わたしの輪郭を大切そうになぞり、前髪を払う。額が現れると小さなキスをした。あえてリップ音をさせる事で理性を呼び寄せる。

「本当は唇にしたかったんですけど。したら歯止めが利かなくなるので、おでこにしました。いいですか?」

「もう、してから言わないで……それにこんな時に」

「こんな時だからです。オレに力を貸して下さい」

「それはもちろん! はは、歳上なのに取り乱してごめん」

 口付けを贈られた箇所が熱い、ジンジンする。
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