外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 万人に好かれるのは無理だろうが、ここまでの悪意は傷付く。偶然発見出来たから良いものの、他の誰かに見付かったならーー。

「真琴さんが商品、それも靴にこんな真似をするとは誰も思いません。気掛かりですが今は商品を待っているお客様に集中しましょう。大郷百貨店の外商部が所望品を揃えられなかったと期待を裏切らない為にも。
 明日、メーカーへ問い合わせ、懇意にしている営業担当者へ当たって頂けませんか?」

「……分かった」

「今日のところはこれで解散しましょう」

 わたしを帰し、自分はまだ残るニュアンスだ。現にタクシーを呼ぼうとしている。

「花岡君は帰らないの?」

 靴がこの状態である以上、現時点で対処できる事はないはず。

「いったん帰って身体を休めようよ」

「それは真琴さんの家にという意味で?」

「あ、いや、そのーー」

 同期から真実を知らされ、飛び出してきた室内映像を脳内で再生する。清掃が行き届いているかと言うと自信はない。

 でも、グッと勇気を絞り上げた。

「うん、花岡君が良ければ。たいした持て成しは出来ないけど」

(お茶漬けなら振る舞える。あ、でも花岡君ってお茶漬け食べるのかな?)

「夕飯は食べた?」

「要りません。俺にとって真琴さんが一緒に居てくれる以上の持て成しはないので。いいんですか?」

 恥ずかしい、顔が赤くなるのが分かる。

「い、いいよ」
「やめておきます」

 肯定と遠慮は同時に放たれた。
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