外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「少し調べ物をしたいのと」

 意味深に口角を緩める。

「真琴さんの部屋にお邪魔したら身体を休ませられないですし」

 再び自然に抱き寄せ、つむじへキスした。

「この件が無事終わった時、頭から爪先まで丸ごと存分に頂きます」

「お、美味しくないかもよ?」

「あなたを美味しくないなんて感じる舌を持ち合わせてませんよ。さぁ、食べられてしまう前に帰って下さい」

 言うとわたしからストールを外し、代わりに上着をかけてきた。

「俺が1人じゃないと思えるように貸して下さい」

「貸すも何も花岡君のものでしょう? あ、そういえばストールを返金したくて亮太さんと約束していたの!」

 途端、顔をしかめる花岡君。

「へぇ、兄と約束ですか?」

「勘違いしないで! そういうのじゃないの!」

「そういうのがどういうのか存じませんが、兄を亮太と呼ぶのに俺は苗字で呼ばれるのは納得いきませんね」

「そ、そこ? 気にする?」

「えぇ、とても重大な事ですよ。今後は一樹と呼んでください。さっそく呼んでみましょうか!」

 はい、どうぞとマイクに見立てた拳を口元へ寄せられた。
 彼の言い分はもっともであるが、わたしはなかなか切り替えられない。

「俺の名前呼ぶの、嫌です?」

「そうじゃない! か、かず、花岡君みたく慣れてないの。急に恋人っぽくなれないよ」

(いけない、この1言で彼の恋愛経験とか歴代の彼女等を詮索してしまう)

「……」

 花岡君の沈黙が痛い。

「花岡君を周りの女性が放っておくはずない。それからご令嬢との縁談話があるんでしょう?」
< 96 / 116 >

この作品をシェア

pagetop