外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


 翌朝、出勤してみると事務所内は修羅場と化していた。主任がわたしを見るなり飛びついてくる。

「深山! この靴を知らないか?」

 前もって一樹君から伝えられた通り、わたしは振る舞う。

「あぁ、この靴ならバックヤードに保管してありますよ。それよりこの騒ぎは?」

 佐竹さんの姿へ目配せし、事情を尋ねた。すると主任は隅に手招き。最低限のボリュームで事のあらましを伝える。

「外商部がこの靴を探してるんだが見当たらなくてな。うちの在庫管理が甘いんじゃないかと指摘されているんだよ」

「佐竹さん自ら乗り込んできて?」

「あぁ、どうも今日は社長の視察があるらしい」

「社長が? そんなスケジュールでしたっけ?」

 社長が巡回に来るとなれば全部署へ通達があるはず。覚えのない予定を聞かされ手帳を確認しようとしたら、佐竹さんがこちらへやって来た。

「おはようございます、深山さん」

「おはようございます」

 勝ち誇った顔で挨拶される。

「社長は花岡が外商部に配属された件に興味を持たれたみたいでね。急遽、こちらへ足を運ばれる事になったんだ」

「……そうなんですね」

 彼への好感度がない分、棒読みでもスルー。

「しかし、困った事にこのタイミングで花岡が担当するお客様へトラブルが発生してしまって」

「こちらのビジネスシューズが見つからないと?」

「あぁ、そうだ」
< 98 / 116 >

この作品をシェア

pagetop