そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛

第15話 静けさの後に嵐はやって来る

(え……?)

 陣の顔を見て、しばらくぽかんとしてしまった七瀬だが、あわてて動揺を治めるために深く呼吸をした。
 そもそも彼が青山の企業に勤めているのは、七瀬も知っている。

 このチェアヨガは会社の福利厚生なので、全社員に通達されているし、講師名もちゃんと案内に載っていたから、陣が知っていたのはまったく不思議ではない。
 でも、昨日スタジオで会ったときは何も言っていなかったのに。

 驚きはしたものの、気持ちの切り替えは得意だ。ちゃんと講師としての責務を全うし、三十分の短いクラスを終えた。
 受講してくれた社員に声をかけ、感想を聞いたり質問を受けたりとしているうちに十九時半近くになっていたが、「すっきりしました!」と、デスクワークで凝り固まった体を解せたことに喜ぶ声が多くて、うれしくなった。
 でも、そうこうしている間に陣はいなくなっていた。

 彼が現れてびっくりしたことを伝えたかったし、感想も聞かせてもらいたかったが、個人的な交流は社内に知られない方がいいのかもしれない。
 しかし、思いもよらぬところで陣の顔を見られて、うれしかった。

 結局、帝鳳ホールディングスのビルを出たのは二十時に近かったが、宗吾の帰宅にはまだ余裕があるから急ぐこともないだろう。
 駅に向かって歩いていたときだ。

「七瀬センセー!」

 このところすっかり聞き慣れた声に呼ばれ、七瀬は立ち止まって振り返った。
 会社を飛び出してきた陣が、こちらに駆け寄って来るところだったのだ。
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