そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
「センセ……? 僕、なんか変なこと言いました?」
急に七瀬が顔を背けたから、陣の声があわてている。
「いえ。陣さんはご自分でもヨガをされてるからでしょうけど……私のやっていることを肯定してもらえたみたいで、ちょっとうれしかったんです」
「――?」
家では日々、ヨガを仕事として認めてもらうどころか、厄介のタネであるかのように思われているなんて、彼にはたぶん信じてもらえないだろう。
陣を見上げて七瀬が笑いかけると、今度は彼の表情が曇った。
「七瀬センセーさ、やっぱり……」
そのときだった。
「七瀬!」
陣の声にかぶせて宗吾の怒鳴り声が聞こえてきたので、瞬時に心臓が凍りついた。
声がした背後を振り返ると、宗吾がズンズンとこちらに歩み寄ってきて、七瀬の腕を強引に掴み上げたのだ。
「仕事だとか言って家にいたがらないのは、こういう理由か?」
宗吾が眼鏡越しに陣をにらみつけている。この状況は先日の表参道の逆パターンで、どうやら七瀬が浮気を疑われているみたいだ。
今日はチェアヨガの仕事一本だけだったので、七瀬はヨガマットを持っていない。だから余計にそう見えたのかもしれない。
――今日の仕事のことを話していなかったせいで、一番最悪のパターンになってしまった。
(そっか……私も表参道で二人の間に割り込んで、『出張じゃなかったの!?』って詰め寄ればよかったんだ)
ぼんやりとそんなことを考えたのは、たぶん一種の逃避だったのだろう。でも、すぐ隣に陣がいるのに、そんな誤解をされては彼にも失礼だ。
「ち、違います! 今、仕事が終わって――」
「何が仕事だ! こんな時間に男とフラフラ遊び歩いてたくせに」
宗吾は聞く耳も持ってくれず、強引に七瀬の腕を引っ張って歩き出そうとする。
だが、気が付くと宗吾の手を振り払っていた――陣が。
「待てよ。いきなり人の会話に割り込んできて、彼女の話も聞かずに頭ごなしに怒鳴って連れ去る? 常軌を逸してるだろ」
さっき二人で笑い合った言葉を笑えない場面で使う陣は、普段の穏やかさをかなぐり捨て、嘘のように険しい表情をしている。
「彼女は企業ワークショップの講師で、うちの会社に呼んだ。たまたま帰り道が一緒だったからヨガの質問をしながら歩いていただけで、非難されるようなことは何もしてない」
「――部外者は引っ込んでろ。七瀬、帰るぞ」
宗吾の言葉尻がやや逃げ腰なのは、陣が――自分よりも強そうな男性がきっぱりと宗吾の行いを否定したから、反論ではなく立ち去る方を選んだためだろう。
「自分で人を巻き込んでおきながら、部外者? だいたい、さっきの発言は先生に対する侮辱だ。取り消せ」
(陣さん……)
宗吾の言葉は、陣にとってもかなり侮辱的だったのに、自分のことではなく七瀬を擁護してくれている。
陣のやさしさに泣きたくなった。
でも、ここで彼を介入させるわけにはいかない。これは七瀬と宗吾の問題であって、宗吾の言う通り、陣は無関係な第三者なのだから。
逃げるようにその場から立ち去ろうとする宗吾に引っ張られながら、七瀬は陣を振り返って首を左右に振る。
そして声には出さず、口の動きだけで「ごめんなさい」と伝え、陣から視線を外したが、最後に見た彼は、かなり困惑した表情をしていた。
こんなことに巻き込んでしまっては、もう合わせる顔がない……。
急に七瀬が顔を背けたから、陣の声があわてている。
「いえ。陣さんはご自分でもヨガをされてるからでしょうけど……私のやっていることを肯定してもらえたみたいで、ちょっとうれしかったんです」
「――?」
家では日々、ヨガを仕事として認めてもらうどころか、厄介のタネであるかのように思われているなんて、彼にはたぶん信じてもらえないだろう。
陣を見上げて七瀬が笑いかけると、今度は彼の表情が曇った。
「七瀬センセーさ、やっぱり……」
そのときだった。
「七瀬!」
陣の声にかぶせて宗吾の怒鳴り声が聞こえてきたので、瞬時に心臓が凍りついた。
声がした背後を振り返ると、宗吾がズンズンとこちらに歩み寄ってきて、七瀬の腕を強引に掴み上げたのだ。
「仕事だとか言って家にいたがらないのは、こういう理由か?」
宗吾が眼鏡越しに陣をにらみつけている。この状況は先日の表参道の逆パターンで、どうやら七瀬が浮気を疑われているみたいだ。
今日はチェアヨガの仕事一本だけだったので、七瀬はヨガマットを持っていない。だから余計にそう見えたのかもしれない。
――今日の仕事のことを話していなかったせいで、一番最悪のパターンになってしまった。
(そっか……私も表参道で二人の間に割り込んで、『出張じゃなかったの!?』って詰め寄ればよかったんだ)
ぼんやりとそんなことを考えたのは、たぶん一種の逃避だったのだろう。でも、すぐ隣に陣がいるのに、そんな誤解をされては彼にも失礼だ。
「ち、違います! 今、仕事が終わって――」
「何が仕事だ! こんな時間に男とフラフラ遊び歩いてたくせに」
宗吾は聞く耳も持ってくれず、強引に七瀬の腕を引っ張って歩き出そうとする。
だが、気が付くと宗吾の手を振り払っていた――陣が。
「待てよ。いきなり人の会話に割り込んできて、彼女の話も聞かずに頭ごなしに怒鳴って連れ去る? 常軌を逸してるだろ」
さっき二人で笑い合った言葉を笑えない場面で使う陣は、普段の穏やかさをかなぐり捨て、嘘のように険しい表情をしている。
「彼女は企業ワークショップの講師で、うちの会社に呼んだ。たまたま帰り道が一緒だったからヨガの質問をしながら歩いていただけで、非難されるようなことは何もしてない」
「――部外者は引っ込んでろ。七瀬、帰るぞ」
宗吾の言葉尻がやや逃げ腰なのは、陣が――自分よりも強そうな男性がきっぱりと宗吾の行いを否定したから、反論ではなく立ち去る方を選んだためだろう。
「自分で人を巻き込んでおきながら、部外者? だいたい、さっきの発言は先生に対する侮辱だ。取り消せ」
(陣さん……)
宗吾の言葉は、陣にとってもかなり侮辱的だったのに、自分のことではなく七瀬を擁護してくれている。
陣のやさしさに泣きたくなった。
でも、ここで彼を介入させるわけにはいかない。これは七瀬と宗吾の問題であって、宗吾の言う通り、陣は無関係な第三者なのだから。
逃げるようにその場から立ち去ろうとする宗吾に引っ張られながら、七瀬は陣を振り返って首を左右に振る。
そして声には出さず、口の動きだけで「ごめんなさい」と伝え、陣から視線を外したが、最後に見た彼は、かなり困惑した表情をしていた。
こんなことに巻き込んでしまっては、もう合わせる顔がない……。