そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 そんなしんどい夜を過ごしたにも関わらず、翌朝になると宗吾はケロッと機嫌を直し、早朝クラスのある七瀬に笑いかけ、トーストとコーヒーを用意してくれた。

「あ、ありがとう……」

 恐々とお礼を言うと、宗吾は昨晩のことには一切言及せず、「珍しく早起きしたから」と笑っていた。
 昨晩、早々に寝室に籠城したから、早く目を覚ましたのだろう。

 でも、これでほっとしてしまい、七瀬も昨晩の騒動には触れずに済ます。このまま宗吾が機嫌よくいてくれれば……。
 今週末はいよいよ名古屋のワークショップだ。ちゃんと話をしてあるとはいえ、不安は尽きない。

(やっぱり日曜日の受講はキャンセルして、土曜日に帰ってこようかな……)

 落ち着かないまま木曜日の早朝クラスへ向かったのだが、今日に限って陣が来なかった。
 今までにも、予約が取れなかったり仕事が入ったりで、陣が受講しない日は時々あったのだが、もしかしたら昨晩の騒動で呆れられてしまったのかも――。

 たぶん、七瀬が不安に思っていることの大半は、たいてい七瀬の不安とは無関係な理由で起きている。
 だが、昨日の今日なので、やっぱり宗吾のことで怒っていて、七瀬と関わらないようにしようと考えているのかも――。

(陣さんの顔を見れば、少しは気持ちが晴れる気がしたのに……)

 そう考えて、無意識のうちに陣に助けを求めている自分に気が付き、あわてて頭を振った。
 自分の気持ちは、自分で対処するべきだ。陣をこれ以上、七瀬の都合に巻き込むのは不盗(アスティヤ)に反する。

 名古屋から帰ってきたら、きちんと場を設けて宗吾と話し合いをしようと思っている。なるべく彼が激昂しないように人目のある場所で、落ち着いて、穏やかに。
自分の気持ちを正直に、真摯に打ち明けようと思う。その上で、宗吾が望んでいることも可能な限り受け入れるつもりだ。

 七瀬にとって一番大事なことは、ヨガを続けること。それはライフワークであり、仕事としてこの先も続けていく。そして、それを宗吾に認めてもらうこと。
 それがわがままだと言われるのであれば、今いるこの場所は、七瀬の居場所ではないのだ。
 これ以上、彼の時間を奪うことはできない。

 宗吾に気持ちは残っているが、ヨガ講師を否定されたままだったら、もう彼と同じ時間を過ごすことはできない。その気持ちも、きちんと話す。

 ちゃんと心から思いを伝えれば、きっと宗吾もわかってくれるはずだから――。
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