そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
ふらふらと店の扉を開けると、ウェイターが七瀬の顔を見て「いらっしゃいませ」と、明らかに知った顔に向けての挨拶をしてくれた。
「あ、こんばんは――」
寒さのせいか感情が冷え切っているせいか、あまり表情は動かなかったが、それでも人と話すことで、凍りついていたものがすこしだけ溶けた。
でも、先日座ったカウンター席に陣の姿はない。それを見て、落胆している自分がいる――。
「七瀬センセー! いらっしゃい」
そんな七瀬に親しみのある呼びかけをしてきたのは、陣の兄の潤だった。
「あ……潤さん、先日はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
酔い潰れるという失態を詫びると、潤は笑った。
「とんでもないです。こちらこそ、もっと気を付けて提供するべきでした。陣なら来てませんけど、呼びましょうか?」
「あ――いえ! 寒かったから、温かいものを一杯いただきたくて。アイリッシュコーヒーをお願いします」
先日、陣に教えてもらったホットコーヒーのカクテルだ。
「かしこまりました。ほんと寒いですよね、雪が降るにはまだ早いのに、結構降ってるみたいで」
店内は大きなガラス張りなので、外の様子がよく見える。
水分を含んだ重たい雪なので積もりはしないだろうが、結構な勢いで降っているので、外に注目している客が多かった。
さっきはみぞれだったが、はっきりと雪へと移り変わっている。
七瀬はカウンターの壁側にコートを着たまま座り、潤がアイリッシュコーヒーを作る様子を見つめた。
無骨なグラスマグを温め、ボウルに入れた生クリームを七分立てくらいにし、マグにホットコーヒーとザラメを入れて混ぜる。
その上から、やさしく生クリームを流し込み、コーヒーと生クリームの綺麗な二層を作った。
「ここから見ててくださいね」
潤がにっこり笑い、小鍋にアイリッシュウイスキーを注ぐと、火にかけたのだ。すると、鍋の中のウイスキーに炎が上がる。
「えっ、フランベ?」
「ええ。こうしてアルコールを飛ばしてやると、風味が引き立ちますし、飲みやすくなるんですよ」
先日、七瀬が飲みすぎたからだろうか。
苦笑しながらその様子を見ていたら、燃えたままのウイスキーをそのままグラスに移したのだ。
青い炎が揺らめきながらグラスに収まって、やがて消える。
「これはカウンター席のお客様だけが見れる特権ですよ。さあどうぞ」
「すごい……! いただきます」
黒と白のコントラストが美しいカクテルだ。グラスマグを両手で握り込んだら、温かくて、冷えた心が少しだけ緩んだ気がした。
そっと口をつけると、ほんのり甘いクリーム、ウイスキーの香りのするコーヒーが身体に染み入る。
「おいしい……」
「今日はもうすぐ閉店なんですけど、本当に陣、呼ばなくていいんですか?」
「たまたま通っただけですし、もう帰りますので」
一気飲みにならないよう気を付けつつも、あまり時間をかけることなく温かいうちに甘いカクテルを飲み、七瀬は席を立った。
「ごちそうさまでした! とてもおいしかったです」
「お気をつけて。またいらしてくださいね」
「ぜひ!」
会計を済ませて店を出たのだが、駅方面にしばらく進んだところで足を止めた。
どこにも行くところがないのだ。
「あ、こんばんは――」
寒さのせいか感情が冷え切っているせいか、あまり表情は動かなかったが、それでも人と話すことで、凍りついていたものがすこしだけ溶けた。
でも、先日座ったカウンター席に陣の姿はない。それを見て、落胆している自分がいる――。
「七瀬センセー! いらっしゃい」
そんな七瀬に親しみのある呼びかけをしてきたのは、陣の兄の潤だった。
「あ……潤さん、先日はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
酔い潰れるという失態を詫びると、潤は笑った。
「とんでもないです。こちらこそ、もっと気を付けて提供するべきでした。陣なら来てませんけど、呼びましょうか?」
「あ――いえ! 寒かったから、温かいものを一杯いただきたくて。アイリッシュコーヒーをお願いします」
先日、陣に教えてもらったホットコーヒーのカクテルだ。
「かしこまりました。ほんと寒いですよね、雪が降るにはまだ早いのに、結構降ってるみたいで」
店内は大きなガラス張りなので、外の様子がよく見える。
水分を含んだ重たい雪なので積もりはしないだろうが、結構な勢いで降っているので、外に注目している客が多かった。
さっきはみぞれだったが、はっきりと雪へと移り変わっている。
七瀬はカウンターの壁側にコートを着たまま座り、潤がアイリッシュコーヒーを作る様子を見つめた。
無骨なグラスマグを温め、ボウルに入れた生クリームを七分立てくらいにし、マグにホットコーヒーとザラメを入れて混ぜる。
その上から、やさしく生クリームを流し込み、コーヒーと生クリームの綺麗な二層を作った。
「ここから見ててくださいね」
潤がにっこり笑い、小鍋にアイリッシュウイスキーを注ぐと、火にかけたのだ。すると、鍋の中のウイスキーに炎が上がる。
「えっ、フランベ?」
「ええ。こうしてアルコールを飛ばしてやると、風味が引き立ちますし、飲みやすくなるんですよ」
先日、七瀬が飲みすぎたからだろうか。
苦笑しながらその様子を見ていたら、燃えたままのウイスキーをそのままグラスに移したのだ。
青い炎が揺らめきながらグラスに収まって、やがて消える。
「これはカウンター席のお客様だけが見れる特権ですよ。さあどうぞ」
「すごい……! いただきます」
黒と白のコントラストが美しいカクテルだ。グラスマグを両手で握り込んだら、温かくて、冷えた心が少しだけ緩んだ気がした。
そっと口をつけると、ほんのり甘いクリーム、ウイスキーの香りのするコーヒーが身体に染み入る。
「おいしい……」
「今日はもうすぐ閉店なんですけど、本当に陣、呼ばなくていいんですか?」
「たまたま通っただけですし、もう帰りますので」
一気飲みにならないよう気を付けつつも、あまり時間をかけることなく温かいうちに甘いカクテルを飲み、七瀬は席を立った。
「ごちそうさまでした! とてもおいしかったです」
「お気をつけて。またいらしてくださいね」
「ぜひ!」
会計を済ませて店を出たのだが、駅方面にしばらく進んだところで足を止めた。
どこにも行くところがないのだ。