そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
第18話 ぬくもりをくれる人
『七瀬さん、どこにいますか』
スマホを見つめて呆然としている七瀬の耳に、焦った様子の陣の声が響いてくる。
七瀬はおずおずとスマホを耳に当て、か細い声で「陣さん……?」と応答した。
『よかった、やっとつながった! 今どこですか。兄から、七瀬センセーの様子がおかしかったって連絡があって……。まだ近くにいますか』
何と答えようか迷ったが、うまく言葉が出てこない。なんとか口を開いても、喉が掠れて声が出てこなかった。
電話の向こうの陣は、外を走っている様子だ。もしかして、潤から電話を受けて、七瀬を探すために外にいるのだろうか。
『先生。どこですか』
「こ、公園……です。ブランコのある――」
『すぐ行きます』
電話が切れて数分後、公園の外の道を走る足音が聞こえてきた。
顔を上げると、公園の入り口で傘を差した陣が立ち尽くしていたが、七瀬の姿を見つけるなり走り寄って来る。
「七瀬さん」
息を切らせた陣は、雪の中、ブランコに座ったまま小さくなっている七瀬に傘をさしかけてしゃがみ、下から顔を覗き込んできた。
こんなみっともない顔、見られなくないのに。でも、彼の心配そうな顔を見たら、色んな感情が渦巻いて、胸が詰まった。
「とにかく、移動しましょう。ずぶ濡れで冷え切ってるじゃないですか。いつまでもこんなところにいたら、風邪をひきます」
陣の大きな手が、ブランコのチェーンを掴んでいた七瀬の手の上にかぶさった瞬間、たちどころに涙が盛り上がってきて視界が歪んだ。
彼の手のぬくもりで、凍てついていた感情が溶けてしまったのかもしれない。
「ふ……っ、ぅ……」
必死に嗚咽を抑えようとするが、涙がこぼれるのを堪えられない。
力なく頭を垂れて肩を震わせたら、濡れた地面に膝をついた陣に抱きしめられていた。そのぬくもりとやさしい香りに包まれて、ようやく涙腺が氷解する。
「行こう、七瀬さん」
あったかい陣の胸に抱き寄せられ、立ち上がるように促された七瀬は、されるがままにブランコを降り、遠慮がちに陣のコートに縋りついた。
――助けを求めるように。
同時に、ぼろぼろと涙がこぼれ、雪に混じって地面に落ちる。
陣の手が力強く七瀬の右手を握りしめ、そのまま彼のコートのポケットに招いてくれた。
そして、無言で傘をさしかけながら歩き出した。
◇
スマホを見つめて呆然としている七瀬の耳に、焦った様子の陣の声が響いてくる。
七瀬はおずおずとスマホを耳に当て、か細い声で「陣さん……?」と応答した。
『よかった、やっとつながった! 今どこですか。兄から、七瀬センセーの様子がおかしかったって連絡があって……。まだ近くにいますか』
何と答えようか迷ったが、うまく言葉が出てこない。なんとか口を開いても、喉が掠れて声が出てこなかった。
電話の向こうの陣は、外を走っている様子だ。もしかして、潤から電話を受けて、七瀬を探すために外にいるのだろうか。
『先生。どこですか』
「こ、公園……です。ブランコのある――」
『すぐ行きます』
電話が切れて数分後、公園の外の道を走る足音が聞こえてきた。
顔を上げると、公園の入り口で傘を差した陣が立ち尽くしていたが、七瀬の姿を見つけるなり走り寄って来る。
「七瀬さん」
息を切らせた陣は、雪の中、ブランコに座ったまま小さくなっている七瀬に傘をさしかけてしゃがみ、下から顔を覗き込んできた。
こんなみっともない顔、見られなくないのに。でも、彼の心配そうな顔を見たら、色んな感情が渦巻いて、胸が詰まった。
「とにかく、移動しましょう。ずぶ濡れで冷え切ってるじゃないですか。いつまでもこんなところにいたら、風邪をひきます」
陣の大きな手が、ブランコのチェーンを掴んでいた七瀬の手の上にかぶさった瞬間、たちどころに涙が盛り上がってきて視界が歪んだ。
彼の手のぬくもりで、凍てついていた感情が溶けてしまったのかもしれない。
「ふ……っ、ぅ……」
必死に嗚咽を抑えようとするが、涙がこぼれるのを堪えられない。
力なく頭を垂れて肩を震わせたら、濡れた地面に膝をついた陣に抱きしめられていた。そのぬくもりとやさしい香りに包まれて、ようやく涙腺が氷解する。
「行こう、七瀬さん」
あったかい陣の胸に抱き寄せられ、立ち上がるように促された七瀬は、されるがままにブランコを降り、遠慮がちに陣のコートに縋りついた。
――助けを求めるように。
同時に、ぼろぼろと涙がこぼれ、雪に混じって地面に落ちる。
陣の手が力強く七瀬の右手を握りしめ、そのまま彼のコートのポケットに招いてくれた。
そして、無言で傘をさしかけながら歩き出した。
◇