そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 浴室が白く煙る様子を眺めながら、七瀬は目の下までお湯に潜っていた。
 ここは、陣の自宅のだだっ広い浴室である。

 雪の降る寒空の下、あまりのショックで心の機能が停止してしまっていた七瀬だったが、陣に拾われて、こうして広く清潔で温かなお湯につかって、ようやく気持ちが戻って来た。

 冷えた体はすっかりぽかぽかで、みっともなく陣の前で泣いたことを猛烈に恥じるまでに回復したところだ。

(しかも、抱きついてしまっ、た――)

 恥ずかしくてお風呂から出られない。でも、もうかなり長時間入っているので、そろそろ限界が近かった。
 のぼせて倒れでもしたらさすがに恥の上塗りなので、意を決してお湯から出る。

 これまた広い洗面室でパジャマに着替え、化粧水で顔を整え、借りたドライヤーで髪を乾かす。
 日曜まで宿泊するつもりだったため、荷物の中にお泊まりセットが一式入っていたのは本当によかった。
 そして、髪の毛やごみを落としていないかを入念にチェックしてから、荷物を持ってリビングへ向かった。

 公園を後にしてからこの浴室に来るまでは、みっともなくベソベソ泣いていたので、陣と顔を合わせるのはとても気が引ける。
 でも、こうして家に招いてもらい、入浴までさせてもらったのだから、人としてお礼は言わなくては。

 やや視線を下に向けたまま、恐る恐るリビングに入っていくと、壁付けの間接照明で落ち着いた雰囲気の部屋が七瀬を出迎えた。
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