そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 陣はスウェットに着替え、ソファに座って本を読んでいたが、七瀬に気づいてこちらを振り返った。

「あの、お風呂――ありがとうございました」
「すこしは落ち着きました?」
「はい……本当にもう、いつもいつも申し訳ありません……」

 消え入りそうになりながらうなだれると、立ち上がった陣がこちらに来て、いかにも高級そうな革張りソファを勧めてくれた。

「ごはんは? ちゃんと食べました?」
「はい。名古屋で食べてきたので、大丈夫です」
「名古屋?」
「今日は、名古屋スタジオでワークショップを開催してきたんです」
「へえ、『シャンティ』の名古屋スタジオ?」

 七瀬がこくっとうなずくと、カウンターでお茶を淹れていた陣が、温かいほうじ茶のマグカップを手渡してくれた。

「いい香り……」

 湯気を頬に当てて、香ばしい匂いを体いっぱいに吸い込む。

「ワークショップでは何を教えてきたんですか?」

 陣が隣に腰を下ろしたが、絶妙な距離感を保っている。七瀬を警戒させないように気を使ってくれているのだ。

「……心と体のデトックス、です」

 しかし現状を顧みるに、まるでデトックスできていない自分を恥じた。
 いや、毒素を排出した直後に新たな猛毒を盛られ、中毒を起こしたとでもいうべきか。

「何があったのか、聞いてもいいですか? 無理にとは言いませんが……」

 彼がそう聞くのは当然だろう。こんな時間に、七瀬のために外を駆け回ってくれたのだから。
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