そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
第25話 虎の後ろは安全地帯
これまで言い出すことのできなかった言葉を、とうとう宗吾に告げた。
こんな話、本来ふたりだけのときにするべきだと思っていたが、それが怖くてできずにここまできてしまったのだ。
相手を怖いと思うようになった時点で、立場は対等ではなくなる。機嫌のいい時の言動に安堵し、絆され、また暴言を受け、その繰り返し。
でも、自力でそのループから抜け出すのは難しい。
だって、本心を告げたら――。
「今までさんざん人に集っておきながら、他に男ができたらそいつを連れてきて別れ話? 美人局かよ」
陣が傍にいなかったら、彼は別の言葉で七瀬を非難していたはずだ。
でも、宗吾の言葉を受けて、陣の声がぐっと低くなる。かなり怒っているのが七瀬にも伝わってきた。
「朝倉さん、あんたは男だ。七瀬さんより体は大きく、力も強い。ついでに態度もでかい。そんな圧倒的に強者の立場にいるあんたが、七瀬さんに暴言を吐き散らかす姿は対等か? 七瀬さんがあんたのその言動に怯えているのがわからないのか? 用心棒役を連れてくることが悪いと俺は思わない。モラハラを一人で対処するのは無理だから」
モラハラだと指摘されたのは、きっと初めてなのだろう。宗吾の顔色が変わった。
「怒って当然のことに怒っただけで、モラハラ? こっちを悪者にするための詭弁――」
「どこに七瀬さんに対して怒る要素が? むしろ怒るのは彼女の方だ。店に置き去り、嘘の出張、家に女を上げて浮気。どうして七瀬さんがブチ切れないか、俺はそっちの方が不思議だよ。人間ができているというか、お人よし過ぎるかな」
声音こそ怒っているが、宗吾のペースに付き合わないよう淡々と陣は指摘する。
「それに、別にあんたを悪者に仕立て上げるつもりはない。これまで、偶発的にふたりの行動を傍から見ていた俺が感じたことだ。女性を家に上げていないのなら、正直にそれを七瀬さんに言えばいいだけのことだろ? 出張の件は嘘か本当かはともかく、ひとまず言い訳はした。でも、土曜の夜の件は?」
「そっちだって、七瀬を自宅に上げたんだろ!?」
「ああ、丁重にお招きしたよ。意味わかるか? 家に入れただけで、やったことと言えばヨガの瞑想くらいだ。人に言えないような不実なことも、隠しておかなきゃいけない疚しいことも一切ない。あんたと一緒にしないでもらおうか」
「…………」
「それに昨日は一日、七瀬さんは高熱を出して休んでた。雪の夜に外をうろつく羽目になったんだから無理もない」
いつになく陣が饒舌で、宗吾は口を挟む隙もないようだ。いつも勢いで七瀬を畳みかけているが、陣はそれを上回る勢いで宗吾に事実を突きつけ、口を挟ませない。
それでも、ヒートアップしすぎず、周囲の客に気を使って声を抑えていた。
「ヨガマットが家にあったのを見て、七瀬さんが帰って来たかもしれないと察しただろ? 浮気がバレたかもしれないと考えただろ? そんな状況にも関わらず、あんたは七瀬さんに鬼電して怒鳴りつけ、今もまた横柄な態度でやり込めようとしてる。逆切れもいいところだ」
「……だとしても、あんたには関係ないだろ」
宗吾の声からどんどん力がなくなっていく。
こんな話、本来ふたりだけのときにするべきだと思っていたが、それが怖くてできずにここまできてしまったのだ。
相手を怖いと思うようになった時点で、立場は対等ではなくなる。機嫌のいい時の言動に安堵し、絆され、また暴言を受け、その繰り返し。
でも、自力でそのループから抜け出すのは難しい。
だって、本心を告げたら――。
「今までさんざん人に集っておきながら、他に男ができたらそいつを連れてきて別れ話? 美人局かよ」
陣が傍にいなかったら、彼は別の言葉で七瀬を非難していたはずだ。
でも、宗吾の言葉を受けて、陣の声がぐっと低くなる。かなり怒っているのが七瀬にも伝わってきた。
「朝倉さん、あんたは男だ。七瀬さんより体は大きく、力も強い。ついでに態度もでかい。そんな圧倒的に強者の立場にいるあんたが、七瀬さんに暴言を吐き散らかす姿は対等か? 七瀬さんがあんたのその言動に怯えているのがわからないのか? 用心棒役を連れてくることが悪いと俺は思わない。モラハラを一人で対処するのは無理だから」
モラハラだと指摘されたのは、きっと初めてなのだろう。宗吾の顔色が変わった。
「怒って当然のことに怒っただけで、モラハラ? こっちを悪者にするための詭弁――」
「どこに七瀬さんに対して怒る要素が? むしろ怒るのは彼女の方だ。店に置き去り、嘘の出張、家に女を上げて浮気。どうして七瀬さんがブチ切れないか、俺はそっちの方が不思議だよ。人間ができているというか、お人よし過ぎるかな」
声音こそ怒っているが、宗吾のペースに付き合わないよう淡々と陣は指摘する。
「それに、別にあんたを悪者に仕立て上げるつもりはない。これまで、偶発的にふたりの行動を傍から見ていた俺が感じたことだ。女性を家に上げていないのなら、正直にそれを七瀬さんに言えばいいだけのことだろ? 出張の件は嘘か本当かはともかく、ひとまず言い訳はした。でも、土曜の夜の件は?」
「そっちだって、七瀬を自宅に上げたんだろ!?」
「ああ、丁重にお招きしたよ。意味わかるか? 家に入れただけで、やったことと言えばヨガの瞑想くらいだ。人に言えないような不実なことも、隠しておかなきゃいけない疚しいことも一切ない。あんたと一緒にしないでもらおうか」
「…………」
「それに昨日は一日、七瀬さんは高熱を出して休んでた。雪の夜に外をうろつく羽目になったんだから無理もない」
いつになく陣が饒舌で、宗吾は口を挟む隙もないようだ。いつも勢いで七瀬を畳みかけているが、陣はそれを上回る勢いで宗吾に事実を突きつけ、口を挟ませない。
それでも、ヒートアップしすぎず、周囲の客に気を使って声を抑えていた。
「ヨガマットが家にあったのを見て、七瀬さんが帰って来たかもしれないと察しただろ? 浮気がバレたかもしれないと考えただろ? そんな状況にも関わらず、あんたは七瀬さんに鬼電して怒鳴りつけ、今もまた横柄な態度でやり込めようとしてる。逆切れもいいところだ」
「……だとしても、あんたには関係ないだろ」
宗吾の声からどんどん力がなくなっていく。