そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛

第26話 今度こそ、恋人になって

「ど、どうしたんでしょう……」
「会社で何かあったみたいですね。時間外にかけてくるくらいだから、緊急の用件なんでしょう。でも、あそこまでひどいモラハラとは思わなかった。あれじゃあ、次があっても話し合いになんかならないだろうな……」

 肩をすくめる陣に、七瀬は目を伏せながらちょっとだけ笑った。

「……さっきのが彼の本心なら、私はよほど邪魔だったんでしょうね」
「いや、売り言葉に買い言葉だと思いますよ」

 そう言って陣がなぐさめてくれるから、落胆はしたが、苦々しくてもまだ笑うことができている。

「陣さんがいてくれて、とても心強かったです」

 結局、自分では何ひとつ言えなかったけれど……。

「口出しはしない約束だったのに、ごめん。でも、あれに一人で立ち向かうのはやめてください。あんな物言いをされ続けてきたら、どんなに明るい人だって潰れますよ。七瀬さんがこれまで安定を保ってこられたのは、元々の土台の強さとヨガのおかげ、でしょうか」
「そうだといいのですけど――」

 しかし、何ひとつ結論を出すことができなかった。このままでは七瀬も宙ぶらりんのままだ。
 あの家に戻るのは、こうなってはもはや不可能としか思えないし、だからといって今すぐ陣のところに転がり込むのも違う。

「陣、終わった?」

 そのとき、ふたりの席までやってきたのは潤だった。七瀬は勢いよく立ち上がり、深々と頭を下げた。

「申し訳ありませんでした、潤さん。あの、他のお客さまにもご迷惑を……」

 七瀬はこちらを見ている客にも頭を下げるが、今の騒動を見なかったことにしてくれたらしく、それぞれの談笑に戻っていった。
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