そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
「七瀬さん。ひとまず、大まかな荷物だけ取りに戻ってはどうですか? そのままうちに来ればいいから」
「い、いえ。さすがにこれ以上ご迷惑をおかけすることはできません。しばらく、実家に戻ろうかと思って……」
告白はされたものの、恋人と呼んでいいのかもわからない関係なのに、そこまで甘えるわけにはいかない。
宗吾との関係は結局、不完全燃焼のまま決着がついていないのもあるし。
「ご実家は、どこ?」
「昭島です」
「……って、青梅線? ここまで一時間以上はかかるでしょう! 早朝クラスもあるのに、一回や二回ならともかく、毎週のことなのに現実的ではないですよ。どうせまたこっちで家を探すなら、うちで一緒に暮らせばいいじゃないですか。同棲がいやなら、ルームシェアとでも思って」
同棲という言葉に、頬に朱がさした。
「でも……それでは、あんまり……」
「宙ぶらりんのままなのが引っかかってるのはわかりますが、あそこまで言う男に、まだ七瀬さんが踏ん切りをつけられずにいるのは、正直なところもどかしいです。もっと俺に魅力があればなぁ……」
ぼやく陣に、七瀬は涙も忘れて詰め寄った。
「えっ、陣さんは十分に魅力的な人ですよ! ただ、すごくお気持ちはうれしいのですが、あっちがだめならこっちに――って乗り換えようとしてるみたいで、それはどうなのだろうかと……」
この話は先日もしたはずだが、いくら理屈を立てても、心情的な部分で割り切れていないのだ。
すると、陣は顎に指をかけ、首を傾げる。
「乗り換えの何がダメなんですか? うまくいかなくなったから新しいものに換える。ごく自然な話です。ちなみに俺は乗り換えられないように努力するし、そもそも七瀬さんに飽きられない自信があるけど」
体ごと七瀬に向き直って笑う陣だが、その笑みには純粋なやさしさだけでなく、ちょっと悪そうな一面が見え隠れしていた。思わず瞠目したほどだ。
「それに俺は、七瀬さんを泣かせたりしない」
そう言って、七瀬の頬に残っていた涙の跡を、陣の指が拭った。
「言い直すよ。俺のところにおいで。俺の前ではやりたいことを我慢したり、隠したりしなくていいし、ずっと大事にするから」
ずっとなんて言われたら、まるでプロポーズみたいではないか。
でも、陣と個人的に言葉をかわすようになってから、彼は七瀬をずっと肯定し続けてくれて、苦しんでいるときに手を差し伸べてくれた。
この人との穏やかな時間が毎日続けばいいと願った。
怯えたり、機嫌や様子を窺ったりしなくても、心平らかに日々を送れるかもしれないと思ったから――。
「……私が傍にいたら、陣さんはうれしいと思ってくれますか?」
「当然。七瀬さんが傍にいてくれればうれしいから、こうして必死に口説いてる。七瀬さんにもそう思ってもらいたいし。七瀬さんが笑ってる顔を見るのが、俺は何より好きだから、それを毎日見る特権を俺にください」
そう言って、陣が日なたみたいな笑顔をくれる。
それを突っぱねる理由は、どこを探しても見当たらなかった。
「――私も、陣さんにずっと笑っていてほしいです。陣さんの笑顔、とても好きです」
すると、彼は目を細め、心から嬉しそうな顔をしてくれた。
「今度こそ、恋人になってくれる?」
「はい……! こちらこそ、よろしくお願いします」
七瀬もスツールを回転させて陣に向き直り、頭を下げる。
恥ずかしくてうれしくて、でも照れくさくて、陣と目が合うだけでどきどきしてしまう。
こんなむずかゆい空気、初めてかもしれない。
だが。
「――あの、せっかくのポテトが冷めてしまうんですが、そろそろお出ししてもいいですか?」
トリュフの香るフライドポテトを二人の間に置き、潤が真顔をしていた。
「い、いえ。さすがにこれ以上ご迷惑をおかけすることはできません。しばらく、実家に戻ろうかと思って……」
告白はされたものの、恋人と呼んでいいのかもわからない関係なのに、そこまで甘えるわけにはいかない。
宗吾との関係は結局、不完全燃焼のまま決着がついていないのもあるし。
「ご実家は、どこ?」
「昭島です」
「……って、青梅線? ここまで一時間以上はかかるでしょう! 早朝クラスもあるのに、一回や二回ならともかく、毎週のことなのに現実的ではないですよ。どうせまたこっちで家を探すなら、うちで一緒に暮らせばいいじゃないですか。同棲がいやなら、ルームシェアとでも思って」
同棲という言葉に、頬に朱がさした。
「でも……それでは、あんまり……」
「宙ぶらりんのままなのが引っかかってるのはわかりますが、あそこまで言う男に、まだ七瀬さんが踏ん切りをつけられずにいるのは、正直なところもどかしいです。もっと俺に魅力があればなぁ……」
ぼやく陣に、七瀬は涙も忘れて詰め寄った。
「えっ、陣さんは十分に魅力的な人ですよ! ただ、すごくお気持ちはうれしいのですが、あっちがだめならこっちに――って乗り換えようとしてるみたいで、それはどうなのだろうかと……」
この話は先日もしたはずだが、いくら理屈を立てても、心情的な部分で割り切れていないのだ。
すると、陣は顎に指をかけ、首を傾げる。
「乗り換えの何がダメなんですか? うまくいかなくなったから新しいものに換える。ごく自然な話です。ちなみに俺は乗り換えられないように努力するし、そもそも七瀬さんに飽きられない自信があるけど」
体ごと七瀬に向き直って笑う陣だが、その笑みには純粋なやさしさだけでなく、ちょっと悪そうな一面が見え隠れしていた。思わず瞠目したほどだ。
「それに俺は、七瀬さんを泣かせたりしない」
そう言って、七瀬の頬に残っていた涙の跡を、陣の指が拭った。
「言い直すよ。俺のところにおいで。俺の前ではやりたいことを我慢したり、隠したりしなくていいし、ずっと大事にするから」
ずっとなんて言われたら、まるでプロポーズみたいではないか。
でも、陣と個人的に言葉をかわすようになってから、彼は七瀬をずっと肯定し続けてくれて、苦しんでいるときに手を差し伸べてくれた。
この人との穏やかな時間が毎日続けばいいと願った。
怯えたり、機嫌や様子を窺ったりしなくても、心平らかに日々を送れるかもしれないと思ったから――。
「……私が傍にいたら、陣さんはうれしいと思ってくれますか?」
「当然。七瀬さんが傍にいてくれればうれしいから、こうして必死に口説いてる。七瀬さんにもそう思ってもらいたいし。七瀬さんが笑ってる顔を見るのが、俺は何より好きだから、それを毎日見る特権を俺にください」
そう言って、陣が日なたみたいな笑顔をくれる。
それを突っぱねる理由は、どこを探しても見当たらなかった。
「――私も、陣さんにずっと笑っていてほしいです。陣さんの笑顔、とても好きです」
すると、彼は目を細め、心から嬉しそうな顔をしてくれた。
「今度こそ、恋人になってくれる?」
「はい……! こちらこそ、よろしくお願いします」
七瀬もスツールを回転させて陣に向き直り、頭を下げる。
恥ずかしくてうれしくて、でも照れくさくて、陣と目が合うだけでどきどきしてしまう。
こんなむずかゆい空気、初めてかもしれない。
だが。
「――あの、せっかくのポテトが冷めてしまうんですが、そろそろお出ししてもいいですか?」
トリュフの香るフライドポテトを二人の間に置き、潤が真顔をしていた。