そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
「あの……お話は嬉しいんですけど、金銭面が……」
「金銭面? 引っ越し業者くらい手配するよ。家具も買うし」
「それもそうなんですが、家賃とか……」
七瀬が小さくなりながら恥を忍んで言ったら、陣も、新しいビールを持ってきた潤も、同時にきょとんとした。
やがて、陣は眉間にしわを寄せ、潤はなぜかくすくす笑い出す。
「俺が元々住んでいる家に、無理言って七瀬さんを連れてこようとしてるのに、そこで『家賃』という発想になるのがよくわからない。そんなのいらないよ」
「住居をある程度占有することになるんですから、普通のことですよ! それに、気持ちは同棲やルームシェアではなく、下宿なので……」
小さくなりながら打ち明けると、陣がぽかんとした。
「下宿……。それじゃあ俺、恋人じゃなくて大家さんだよ? やだな、やめて?」
大袈裟に悲しげな顔をして見せた陣に、不覚にも笑ってしまった。
「でも、大家さんにご厄介になる下宿人、というイメージがどうしても強くて……」
あのホテルみたいな家に住んでいる陣と自分が、対等の立場とはどうしても思えない。大家さんという陣の言葉に、びっくりするぐらい納得してしまった。
「いや、大丈夫。心配しないで。あの家に家賃ないから。俺の持ち家だし」
「も、持ち家でも、いろいろとお金はかかるのに」
家賃はなくともローンや管理費はあるだろう。
正直、青山という立地に、あれだけの規模の部屋を構えたマンション、賃貸だろうと分譲だろうと、七瀬の経済状況から考えると無縁の一言だ。
大企業の御曹司という時点で推して知るべきだが、住む世界が違いすぎて――。
「それは家主である俺にかかる経費だし。あっ、家賃を浮かすために同棲を提案したと思ってる!? 違うよ!」
「そう思ってるわけじゃないですけど、お金のことはきちんとしておきたいです。まだ付き合った実績もないのに、そこまで面倒見てもらうのでは社会人として恥ずかしいですし」
「いい子だねえ、七瀬ちゃん」
それまで笑いながら二人の会話を聞いていた潤は、すっかり身内のような距離感である。
「人の彼女にちゃん付けやめろ。七瀬さん、お金の話はあとでゆっくりするとして、そろそろ荷物取りにいきましょう。車来ましたから」
陣がスマホの画面を見て立ち上がる。
「車?」
陣にくっついて一緒に店を出ると、前の道にシルバーの大きめな車が停まっていて、ドアの前に陣と同年代くらいのスーツ姿の男性が立っていた。
「お疲れ様です、専務」
「私用で悪いな、木崎。七瀬さん、彼は俺の秘書の木崎拓馬くん。彼女は鈴村七瀬さん。たった今、俺の恋人になってもらったところ」
「は、はじめまして……? 鈴村です」
なぜいきなり秘書が現れたのか、驚きとともに木崎を見て頭を下げた。
品のいいスーツを隙なく着こなす秘書の木崎は、陣と同年代に見えるが、黒縁眼鏡をかけていてとても生真面目そうな印象を受ける。
陣の物言いに驚くでもなく、見た目の印象通りに生真面目そうに挨拶を返してくれた。
「木崎です。よろしくお願いします。どうぞ」
そう言って後部座席のドアを開けると、七瀬に乗るように促した。
「金銭面? 引っ越し業者くらい手配するよ。家具も買うし」
「それもそうなんですが、家賃とか……」
七瀬が小さくなりながら恥を忍んで言ったら、陣も、新しいビールを持ってきた潤も、同時にきょとんとした。
やがて、陣は眉間にしわを寄せ、潤はなぜかくすくす笑い出す。
「俺が元々住んでいる家に、無理言って七瀬さんを連れてこようとしてるのに、そこで『家賃』という発想になるのがよくわからない。そんなのいらないよ」
「住居をある程度占有することになるんですから、普通のことですよ! それに、気持ちは同棲やルームシェアではなく、下宿なので……」
小さくなりながら打ち明けると、陣がぽかんとした。
「下宿……。それじゃあ俺、恋人じゃなくて大家さんだよ? やだな、やめて?」
大袈裟に悲しげな顔をして見せた陣に、不覚にも笑ってしまった。
「でも、大家さんにご厄介になる下宿人、というイメージがどうしても強くて……」
あのホテルみたいな家に住んでいる陣と自分が、対等の立場とはどうしても思えない。大家さんという陣の言葉に、びっくりするぐらい納得してしまった。
「いや、大丈夫。心配しないで。あの家に家賃ないから。俺の持ち家だし」
「も、持ち家でも、いろいろとお金はかかるのに」
家賃はなくともローンや管理費はあるだろう。
正直、青山という立地に、あれだけの規模の部屋を構えたマンション、賃貸だろうと分譲だろうと、七瀬の経済状況から考えると無縁の一言だ。
大企業の御曹司という時点で推して知るべきだが、住む世界が違いすぎて――。
「それは家主である俺にかかる経費だし。あっ、家賃を浮かすために同棲を提案したと思ってる!? 違うよ!」
「そう思ってるわけじゃないですけど、お金のことはきちんとしておきたいです。まだ付き合った実績もないのに、そこまで面倒見てもらうのでは社会人として恥ずかしいですし」
「いい子だねえ、七瀬ちゃん」
それまで笑いながら二人の会話を聞いていた潤は、すっかり身内のような距離感である。
「人の彼女にちゃん付けやめろ。七瀬さん、お金の話はあとでゆっくりするとして、そろそろ荷物取りにいきましょう。車来ましたから」
陣がスマホの画面を見て立ち上がる。
「車?」
陣にくっついて一緒に店を出ると、前の道にシルバーの大きめな車が停まっていて、ドアの前に陣と同年代くらいのスーツ姿の男性が立っていた。
「お疲れ様です、専務」
「私用で悪いな、木崎。七瀬さん、彼は俺の秘書の木崎拓馬くん。彼女は鈴村七瀬さん。たった今、俺の恋人になってもらったところ」
「は、はじめまして……? 鈴村です」
なぜいきなり秘書が現れたのか、驚きとともに木崎を見て頭を下げた。
品のいいスーツを隙なく着こなす秘書の木崎は、陣と同年代に見えるが、黒縁眼鏡をかけていてとても生真面目そうな印象を受ける。
陣の物言いに驚くでもなく、見た目の印象通りに生真面目そうに挨拶を返してくれた。
「木崎です。よろしくお願いします。どうぞ」
そう言って後部座席のドアを開けると、七瀬に乗るように促した。