そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
「七瀬センセーはまだお若いですよね。いつからヨガを?」
「高校生のときです。子供の頃からずっとダンスをやっていましたが、怪我が増えてきて。ヨガは、ダンスができないときにストレッチがてら取り入れたんですけど、教えてくださった先生にすっかり魅了されちゃいました」

 大学で運動科学を学ぶ傍ら、ヨガスタジオに通ってインストラクターコースで資格を取得し、卒業して間もなく、学生時代のアルバイトで貯めた資金でインドに渡り、二十日間みっちりヨガ修行をしてきた。

「えっ、インド!?」

 その話をしたら、陣は本気で驚いていた。

「ヒマラヤ山脈の麓にあるリシケシというところは、ヨガの聖地と言われていて、修行のための道場(アシュラム)がいくつもあるんです。そこで一ヶ月間みっちり修行をして、国際的なインストラクター認定資格を取りました」
「インド……危なくないですか?」
「リシケシは治安のいいところですし、日本からのツアーがあるので、不安はなかったです。たくさんの仲間と一緒に過ごしましたし、とてもいい経験でしたよ。いずれ、また行くつもりです」

 そのつもりでコツコツと貯金をしているが、宗吾はいい顔をしないだろうな……と思うと、ため息をつきたくなった。

「はあ――そんな本格的な……。尊敬に値します」
「そんなこと。私は好きなことしかしてないので。陣さんはこの辺りにお勤めなんですか?」
「ええ、しがないサラリーマンですよ。七瀬センセーみたいに、自分のやりたいことを貫く人を尊敬します。まあ、サラリーマンもおもしろくはありますけどね。今はいろんな業務を経験させてもらってる最中なので、とくに」
「私も教えることが好きだから続けているだけで、尊敬されるようなことはしていません。サラリーマンは立派なお仕事ですし、与えられた仕事におもしろさを見つけられるのは、すばらしいことじゃないですか?」

 陣が自分のことを話してくれるのがうれしくて、思わず前のめりになって言ったら、彼は目を丸くして笑った。

「まあ、半分は親の七光りみたいなものですが」
「親御さんの跡を継がれて? 親が築いてきたお仕事を継承するのも、『子供だから』とかんたんにできることではないと思います。陣さんの努力と才能があったからこそ、今の場所があるんです。それに、その事業を自分なりにさらに発展させるチャンスでもありますよね。それって、すてきなことです」
「そう全面的に肯定されると、ょっと照れ臭いな……」

 実際に照れ臭そうに笑う陣を見ていると、ちょっと前までささくれ立っていた心が和んでいく気がした。
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