そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
陣が問いかけたら、それまで混乱した様子だった宗吾が目を上げた。昏い情念を湛えたような目に、危険なものを感じる。
「――方法は知りません。彼女に聞いてください。なぜ私が、一部下の旅行の予約に協力するため、自ら倫理規定違反を犯さなくてはならないのですか。何のメリットもないことです」
「大楠さんが旅行の予約をしていたのは知っているんですね。その旅行は、誰と一緒に行くのか聞いていますか?」
「さあ」
ここで陣は用心深くなった。月曜日の自社ヒアリングでは、大楠沙梨が彼との旅行予約をしていたことを認識していたと報告を受けている。
「そうですか。彼女は、朝倉マネージャーとお付き合いをしていて、あなたと旅行すると言っていましたし、月曜日はあなたもそれを肯定されていたと思いますが……」
「あのときは混乱していて、自分でも何を言っていたのかよく覚えていません。昨日一日、自宅でこの件についてじっくり考えていたのですが、これは意図的に仕掛けられた罠である――そういう結論に至りました」
「罠?」
一同がざわつく中、宗吾が立ち上がって会議室中を見回した。
「大楠さんが何を言っているのか、詳しくは存じ上げておりません。ですが、私は彼女とお付き合いはしていません。大楠さんの研修担当でしたので多少は親しいですが、個人的な付き合いはないです。私には一緒に暮らしている恋人がいますので」
そして宗吾は、まっすぐ陣を見据えた。
「ところがそこにおられる三門専務が、私から恋人を奪うために罠をしかけたのです」
「は……?」
全員の視線が陣の上に集まる。
「それは、どういうことでしょう」
本部長は陣と宗吾を交互に眺めて、理解不能という顔をしている。
「実のところ、私は大楠さんからストーカーに近い行為を受けていました。弁当を作ってこられたり、週末に呼び出されたり。自分が育てた後輩ということもあって、彼女にはほかの社員よりやや親しくしすぎた部分があり、その点は非常に反省しています。つい一年前まで学生だった大楠さんに、社会人としての距離感などを教育すべき私が、それを教えられなかったことは悔やんでも悔やみきれません」
そうきたか。陣は背筋を伸ばして座り直した。
「これはプライベートな話になってしまうので恐縮ですが……私が三年近く同棲している恋人は、この近所のヨガスタジオで講師をしています。三門専務はそのスタジオに通われているそうですが、彼女に恋心を抱いたのでしょう。ところが、彼女には私という恋人がいる。しかも帝鳳の子会社に勤めている平社員だ。手っ取り早く私を失脚させるために、三門専務が大楠さんをそそのかしたと、そのようにしか考えられません」
「――方法は知りません。彼女に聞いてください。なぜ私が、一部下の旅行の予約に協力するため、自ら倫理規定違反を犯さなくてはならないのですか。何のメリットもないことです」
「大楠さんが旅行の予約をしていたのは知っているんですね。その旅行は、誰と一緒に行くのか聞いていますか?」
「さあ」
ここで陣は用心深くなった。月曜日の自社ヒアリングでは、大楠沙梨が彼との旅行予約をしていたことを認識していたと報告を受けている。
「そうですか。彼女は、朝倉マネージャーとお付き合いをしていて、あなたと旅行すると言っていましたし、月曜日はあなたもそれを肯定されていたと思いますが……」
「あのときは混乱していて、自分でも何を言っていたのかよく覚えていません。昨日一日、自宅でこの件についてじっくり考えていたのですが、これは意図的に仕掛けられた罠である――そういう結論に至りました」
「罠?」
一同がざわつく中、宗吾が立ち上がって会議室中を見回した。
「大楠さんが何を言っているのか、詳しくは存じ上げておりません。ですが、私は彼女とお付き合いはしていません。大楠さんの研修担当でしたので多少は親しいですが、個人的な付き合いはないです。私には一緒に暮らしている恋人がいますので」
そして宗吾は、まっすぐ陣を見据えた。
「ところがそこにおられる三門専務が、私から恋人を奪うために罠をしかけたのです」
「は……?」
全員の視線が陣の上に集まる。
「それは、どういうことでしょう」
本部長は陣と宗吾を交互に眺めて、理解不能という顔をしている。
「実のところ、私は大楠さんからストーカーに近い行為を受けていました。弁当を作ってこられたり、週末に呼び出されたり。自分が育てた後輩ということもあって、彼女にはほかの社員よりやや親しくしすぎた部分があり、その点は非常に反省しています。つい一年前まで学生だった大楠さんに、社会人としての距離感などを教育すべき私が、それを教えられなかったことは悔やんでも悔やみきれません」
そうきたか。陣は背筋を伸ばして座り直した。
「これはプライベートな話になってしまうので恐縮ですが……私が三年近く同棲している恋人は、この近所のヨガスタジオで講師をしています。三門専務はそのスタジオに通われているそうですが、彼女に恋心を抱いたのでしょう。ところが、彼女には私という恋人がいる。しかも帝鳳の子会社に勤めている平社員だ。手っ取り早く私を失脚させるために、三門専務が大楠さんをそそのかしたと、そのようにしか考えられません」