それらすべてが愛になる
 駅前の一際賑やかな通りを抜け、商業施設に吸い込まれていく人波にも逆らいながら歩いて辿り着いた雑居ビル。確かここの地下だったはずだ。

 階段を下りて引き戸を開けると、いらっしゃいませ!と太陽みたいな笑顔の店員が出迎えてくれる。

 「一名様ですね、カウンター席でもよろしいですか?」

 「はい大丈夫です」

 女で独りでは不思議そうな顔をされるかと思ったけれど、変わらない笑顔で元気よく案内してくれた。

 席に着いて、ドリンクのオーダーを取りに来た店員にハイボールを頼む。あまり待つことなく、カウンターの向こうの店主からお通しとグラスをテーブルに置いてくれた。

 「本日のお通しはタコとオクラの塩レモンマリネ、厚揚げと大根の煮物ね。それとこれが今日のおすすめ」

 渡された手書きのメニューには本日のおすすめが並ぶ。
 この前食べたお刺身が美味しかったので頼むとして、他はどれにしようかと迷っていると店主がアドバイスをくれた。

 「今日の一押しは太刀魚の塩焼きかな、あと軟骨の唐揚げ。うちのは薬研軟骨だから柔らかくて美味いよ」

 「美味しそう!その二つをお願いします」

 「はいよ!」

 店主のおすすめと、追加で野菜串を頼んだ。

 お店はだんだんと混み合ってきて、カウンター席も気づけばいっぱいになる。やはり人気店のようだ。

 店員の威勢の声を聞きながらお通しを一口。居酒屋の料理というとお酒に合うように濃いイメージだったけれど、このお店の料理はとても優しい。ほうっと体から余計な力が抜けるような味付けだ。

 未知夏の話していたように店主の話術は巧みで、お店は兄弟で切り盛りしていること、特注した焼き場の煙が流れていかない装置の仕組みなどを、接客の合間に面白く教えてくれた。

 ハイボールも進んであっという間に空になると、グラスの氷がカランッといい音を立てた。

 はぁっと息を吐くと、何とはなしに左隣りの席から視線を感じた。

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