それらすべてが愛になる
 決して派手ではないけれど、スーツや時計など身に付けているものが高級そうで、柔和な笑顔からは人柄と品の良さが滲み出ている。

 清流の父が亡くなったのがちょうど十年前。

 記憶の中の父は若いままだけれど、もし生きていたらこの男性のような風貌になっていたかもしれない。
 頭の中でややグレイヘアーになった髪や笑い皺の増えた顔をイメージするけれど、あまり上手くいかなかった。


 清流が子供の頃は、従業員は少ないながらもみんな家族みたいに仲が良かったけれど、叔父と叔母に経営が移ってからは雰囲気もガラリと変わってしまった。

 実際にどんなことがあったのか詳しくは分からないが『もうついていけない』と次第に離れていってしまい、今当時の人で残っているのは父の古くからの友人一人だけになってしまっていた。

 清流は、今日洸と言い合いになったときのことを思い返す。
 あのとき頭をよぎったのは、その会社のことだった。

 けれど、町の小さな会社と大企業を同じ物差しで測るのも間違っているとも思う。

 『工藤が口を出すことじゃない』

 その指摘はその通りだった。


 「どうかしましたか?」

 知らずにため息を吐いていたらしく、男性が気遣わしげな眼差しでこちらを窺う。

 「あ、いえ…今日ちょっと上司と揉めてしまったことを思い出して…」

 正確に言えば自分が一方的に感情をぶつけただけで、揉めたと表現していいのかは分からないが。

 「おや、厳しい方なのですね。でも私も職場で揉め事なんかはしょっちゅうですよ」

 この間なんて、と言いながら自身の話をしてくれる。

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