それらすべてが愛になる
 「いや、清流が言ってたことも一理ある。空気を悪くして士気を下げていたのは事実だし」

 清流が出て行った後、未知夏にも子どものケンカじゃないんだからと軽く説教されたのだ。

 でも、と言いかける清流を制して、洸も水を一気に飲み干してから隣りに座る。

 「会社で年次を重ねていくと、だんだんと処世術みたいなものが身についていくものなんだ。ちょうどいい手の抜き方とか、ヤバいところには首を突っ込まないようにしたりとか、誰に教えられるでもなく感覚で。
 けど最近は、新人の頃からそういうスキルが備わっているタイプが多い。何でもソツなくこなす代わりに、深く関わってもこない」

 清流は少し首を傾げながらも、黙って聞いている。

 「だから、清流の何も考えずにぶつかってくるところとか、何回やり直し食らっても諦めないところとか。そういうバカみたいに一生懸命なところが珍しいっていうか、励まされてるやつは多いと思う…俺も含めて」

 初めて会った頃の清流は、自分の力では何もできないと自分で思い込んでいるようだった。

 だから、彼女が置かれている環境から引きあげようと半ば強引にこちら側へと引き込んだ。入ったからには他と同列に扱うつもりだったし、実際にそうした。

 もしかすると音を上げて辞めたいというのではないか、と勝手に憂慮したこともあったが、それは杞憂に終わる。

 それどころか、自分の知らないところで信頼を獲得して自信を得ていたのが面白くなかっただけのことで。

 『男の嫉妬は見苦しいわよ』

 ―――それはさすがに本人には言えないが。

 「ど、どうしたんですか…?何か褒められ過ぎて怖いんですけど、」

 「前に言っただろ、自己肯定感爆上げ期間だって。素直に受け取っとけ」

 「そういえばそうでしたね、ダメ出しされ過ぎて忘れてました」

 「あぁ、俺も榊木に言われるまで忘れてた」

 『ちゃんと褒めるところは褒めて認めてあげないと』というのも、未知夏のありがたい助言だ。もしかすると自分よりも部下の育成に向いているのではないかと洸は思う。

 「未知夏さんにお礼言わないとですね」

 「俺じゃないのかよ」

 「そうでした、ありがとうございます」

 そう言って笑った清流の体がグラリと倒れ込んできて、洸は慌てて抱きとめる。

 顔を覗き込むと、また目の焦点が怪しくなってきている。このまま放っておいたらまた寝てしまうだろう。

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