それらすべてが愛になる
 すみません、と謝る清流を立たせようとするも足元がおぼつかない。

 こうなったら仕方がない。洸は清流の膝下に腕を入れて抱きかかえると、部屋まで連れて行くことにした。

 もうほとんど意識がないのか抵抗もなく、清流の部屋まで辿り着く。
 部屋のドアを開けスイッチを手で探して電気をつけると、清流をベッドの上に寝かせた。

 「今日はもうゆっくり寝ろよ」

 洸が立ち上がろうとしたとき、それを引き止めるように腕が伸びてきた。
 意表をつかれた洸は反応が遅れ、気づけばベッドの上で体を起こした清流に抱きつかれる格好になっていた。

 「……あのなぁ、いい加減本気で襲うぞ」

 「父が死んだのは、中学二年になってすぐでした」

 しん、と空気が止まる。

 「取引先から帰る途中に多重事故に巻き込まれました。
 母は…そのことが原因だったのかは分かりませんが、直後に体調を崩して臥せて、その後病気が見つかって翌年亡くなりました」

 アルコールのせいか彼女の体は熱いのに、紡がれる言葉は素面かと思うほど冷静だった。

 両親が亡くなったことは叔母の佐和子から聞いていたが、今まで清流の口から家族の話が出たことはなかった。それが、なぜ今この状況とタイミングで。

 そう言いたくなるのをかろうじて堪えることができたのは、見下ろした表情があまりにも幼く見えたから。

 眠気なのか酔いのせいなのか、この際どちらでもいい。
 洸のシャツをきつく握る彼女は今、過去の日々の(うち)に微睡んでいる。

 洸はそう理解して、されるがまま黙って目を閉じた。

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