それらすべてが愛になる
 ◇◇◇◇

 帰国した日は一日ビジネスホテルの泊まり、翌朝十時にチェックアウトした清流は、駅へ向かい目的の電車に乗り込んだ。

 清流がもともと訪れようと思っていた場所、それは亡くなった父親の故郷だった。

 新潟にある先祖代々の墓に、清流の両親も眠っている。

 いくつか電車を乗り継ぎ、その後は路線バスで十五分ほど乗った先の、やや小高い見晴らしのよい場所にあった。
 バス停を降りて、すぐ近くの花屋でお供え用の花を買う。

 気軽に行ける距離ではないため最近は少し足が遠のいてしまっていたが、それでも清流は命日以外にも何か二人に話したいことがあったときや相談したいことがあったとき、この場所に訪れていた。

 答えが返ってくるわけではないけれど、それでもここで話すと頭の中が整理されていく感覚があったからだ。

 ―――絶対お父さんの会社を継ぐから。私が守るからね

 前回来たときは、お墓の前でそう告げた。

 あのときは、佐和子の持ってきた縁談を受ける条件で会社を継げると思っていたとき。

 結局佐和子には清流自身に継がせる気はなかったわけだけれど、維城商事で働かせてもらい洸の働きを間近で見たことで、清流は自分の考えがいかに甘かったかがよく分かった。

 もっと社会で経験を積まないと、今のままでは『一度社長になってみたかったんだよね』とお見合いの席で笑って言ったあの大河内という男と大して変わらない。

 とはいえ、清流はまたバイトから始めなくてはならないし、今の会社の業績ではこの先どうなるか、いつまで会社があるかは分からないけれど。

 (だからごめんねお父さん。私お父さんの会社を継ぎたかったけど、今は無理みたい)


 心の中でそう呟きながら墓地を歩いていると、二人が眠るお墓が見えてきた。

 (あれ、お花が新しくなってる…)

 墓石の前に立つと、花立に白い菊と紫のリンドウが、そして立派なぶどうもお供え物として供えられていた。


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