それらすべてが愛になる
洸がこちらを見据える目に見覚えがあった。
自分の見たくないものを見透かされているような鋭い目。

でもやっぱり綺麗で、至近距離でその瞳を覗いてみるとしっかり自分が映っている。

「私、ここにいてもいいんですか?…本当に?」

まだほんの少し迷いを残した声に、洸は小さく笑う。

いつしか隣りにいることが当然で、触れることにも、初めはあれだけ動揺していた彼女の香りにも、次第に感慨を持たなくなっていたこと。
もっと心を開いてほしい頼ってほしいと焦れながら、わずかな変化や機微を見過ごしていたこと。

この部屋で一人で過ごした一週間、その当たり前のような事実に打ちのめされて、自分の浅はかさを嫌というほど思い知った。

「あのな、もしまた出て行ったりしたらさすがの俺も病むぞ」

冗談めかして言ってはみたが、どうしたってその重さは拭えない。
洸は内心自嘲しながら、清流の前髪をさらさらと払う。

「で、返事は?」

「……手紙、読んだんじゃないんですか?」

「読んだ。でも、清流から直接聞きたい」

清流の目が伏せられて、睫毛が影を作る。

その下で潤んだ目が行ったり来たりするのが彼女の中の最後の迷いを表しているようで、顎を掴んでこちらを向かせたい気持ちを抑えて、洸は待った。

やがて清流が顔を上げて、洸を正面から見つめた。


「わ、私、加賀城さんと、」

「名前」

「え?」

「名前で呼んで」

そう言うと一瞬動きが止まったあと、少し困ったように眉を下げた顔が、次の瞬間はちみつを蕩かすような甘さを見せた。



「私、(たける)さんと一緒にいます」



(…あぁ、やっと見れた)


コインを投げて屈託なく笑った、花のような笑顔。

照れて困ったように笑ったり揶揄われて怒ったり、ころころ変わる表情を追うのも好きだけれど。

自分はずっと、この笑顔が見たかったのだ。


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